本学研究推進産学官連携機構の市川康明教授(特任)は9月27日、国際原子力機関(IAEA)の本部(ウィーン)で開催された第60回IAEA総会のサイドイベント「実験炉と加速器を用いた中性子捕捉療法の最近の進展Recent Advances in Boron Neutron Capture Therapy Using Research Reactors and Accelerators」で、より有効で新しいホウ素薬剤や最近の原子炉と加速器の中性子源に焦点を当て、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の現状について報告しました。
BNCTは陽子線・重粒子線治療と並んで粒子線治療法の一種。ホウ素同位体(B-10)を個々のがん細胞に導入した後に中性子線を照射し、がん細胞内部で発生した粒子線によりがん細胞のみを殺傷するため、治療後のQOL(Quality of Life)が良好です。
本学では、大学院医歯薬学総合研究科の松井秀樹教授を中心としたグループが、がん細胞内や核内に特異的に取り込まれる新しいホウ素薬剤を開発しており、名古屋大学で開発中の優れた特性を有する加速器型中性子発生装置と併せて「第3世代BNCT」の早期実現を目指しています。
IAEAは、毎年の総会時に各部署が関心を持っているテーマについてサイドイベントを開催。今年は、放射線治療を担当している原子力科学・応用局物理化学部(NAPC)が、がんの制圧に向けて期待の高まっているBNCTを取り上げ、本学が全面的に協力しました。サイドイベントを主催したIAEA放射性同位体生産放射線技術課のJ.A. Osso Junior課長は、「近年の技術進展により、BNCTは新しい段階に達している。新規薬剤と有効な加速器型中性子発生装置の開発に焦点を当て、がん治療におけるBNCTの役割について見直しを図るのに適切な時期を迎えている」と期待を込めています。本学の森田潔学長も「BNCT分野の研究開発に加え、社会実装に向けた人材育成にも尽力したい」とコメントを寄せました。
※BNCTの歩み
1932年にケンブリッジ大学の物理学者J. Chadwick(チャドウィック)が中性子を発見。1936年にG.L. Locher(ロッカー)がBNCTの可能性を提唱。1951-1961年には、米国ブルックヘブン国立研究所の医療用原子炉でBNCTが臨床適用されたが、ホウ素化合物をがん組織に選択的に蓄積することが出来ず、また、原子炉由来の中性子の性質が適切でなく期待した効果を得らなかったために中止された。
日本では、帝京大学の畠中坦教授によって原子炉を用いた臨床研究が辛抱強く続けられた(第1世代)。近年、日本を中心としてがん細胞へ選択的に蓄積するホウ素化合物が開発されたこと、病院設置型の加速器を用いて所定の性質の中性子線が得られるようになったことにより、一部のがん、悪性脳腫瘍や黒色腫等に対して好結果が得られるようになった(第2世代)。
【本件問い合わせ先】
研究推進産学官連携機構社会連携本部
教授(特任) 市川 康明
TEL:086-251-8853
(16.09.29)