◆発表のポイント
- カーボンナノチューブに水溶液が吸着すると強酸性の界面が形成されることを見出しました。
- 酸性吸着層の形成は、炭素材料を分散させた水溶液がアルカリ性を示すこととも密接に関連しています。
- この発見により、新たな炭素系吸着材の開発や酸性吸着層を利用した新たな化学反応の創出に繋がると期待できます。
岡山大学学術研究院自然科学学域(理)の大久保貴広准教授、武安伸幸准教授らの共同研究グループは、カーボンナノチューブに水溶液を吸着させた後の状態を分光学的に調べ、カーボンナノチューブと水溶液との界面に強酸性の吸着層が形成されていることを発見しました。
研究成果は2022年9月16日、科学雑誌「Journal of Colloid and Interface Science」電子版に掲載されました。
炭素材料は脱臭や有害物質の分離除去を目的として古くから用いられている材料で、水溶液から有害なイオンを取り除く能力もあります。これまでに、炭素材料が水溶液からイオンを吸着する際にプラスのイオンである金属イオンよりも、共存するマイナスのイオンを多く吸着することはわかっていたのですが、その詳細なメカニズムは謎のままでした。今回、大久保准教授らの研究グループは、カーボンナノチューブにアルカリ金属硝酸塩水溶液を吸着させた試料をラマンスペクトルにより検討しました。その結果、中性の水溶液を用いたにも関わらずチューブ状細孔内の界面に水を主成分とする酸性の吸着層が形成されていることを見出しました。この結果は、炭素材料の界面が水溶液と接している際、その界面は酸性になる傾向にあり、マイナスのイオンと強く相互作用する環境にあることを示しています。また、アルカリ金属硝酸塩を吸着した後の水溶液はアルカリ性になります。日常的に水の浄化目的で炭素材料を使う場合がありますが、水がアルカリ性になることが多いです。この原因として、不純物が溶出するなど様々なことが言われていますが、炭素と水溶液との界面に形成される酸性吸着層も関係していることがわかりました。
本研究成果は、炭素材料によるイオンの吸着材としての開発指針を与えるだけでなく、炭素材料の界面を使った新たな化学反応場として利用できる可能性も示しています。今後、優れた吸着材や触媒としての研究が進むと期待できます。
◆研究者からひとこと
学生たちが頑張って取得した実験結果の解釈に悩む日々が続きましたが、ようやく一つの成果としてまとまりました。基本的な現象が明らかになったことで、炭素材料の細孔に水や水溶液が吸着した際のモデルを改めて考え直す必要が出てきました。引き続き研究に励みたいと思います。 | 大久保准教授 |
■論文情報
論 文 名:Acidic layer-enhanced nanoconfinement of anions in cylindrical pore of single-walled carbon nanotube
邦題名「単層カーボンナノチューブの円筒状細孔内における酸性層で増強された陰イオンのナノ閉じ込め」
掲 載 紙:Journal of Colloid and Interface Science
著 者:Takahiro Ohkubo, Hiroki Nakayasu, Yuki Takeuchi, Nobuyuki Takeyasu, Yasushige Kuroda
D O I:10.1016/j.jcis.2022.09.070
発表論文はこちらからご確認できます。
U R L:https://doi.org/10.1016/j.jcis.2022.09.070
*2022年11月11日までの期間限定で以下のリンク(Share Link)から発表論文を確認できます。
https://authors.elsevier.com/a/1fo5l4-sDXUS2
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤(C)・15K05645)、公益財団法人クリタ水・環境科学財団、公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団、および公益財団法人京都技術科学センターの支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
炭素材料に吸着した水溶液は酸性?アルカリ性?中性?~カーボンナノチューブ界面に形成される酸性吸着層~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院自然科学学域(理)
准教授 大久保 貴広
(電話番号)086-251-7843
(FAX)086-251-7843