国立大学法人 岡山大学

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蛋白質アクチンの高分解能構造とATP加水分解反応メカニズムの解明~地球上の生命の最も重要な化学反応の一つの理解の前進~

2022年10月20日

東海国立大学機構
名古屋大学
広島大学
岡山大学
広島市立大学
東海学院大学
横浜市立大学
長岡技術科学大学
九州工業大学
東京薬科大学
豊田理化学研究所
あいちシンクロトロン光センター

◆発表のポイント

  • 蛋白質アクチンのF型の高分解能構造を解明。
  • それら構造を基に量子化学の計算法を使ってATP加水分解反応注1)のメカニズムを解明。
  • 地球上の生命維持にとって最も重要な化学反応の一つであるATP加水分解反応の共通メカニズムの理解を大きく進めた。

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の前田 雄一郎 特任教授(研究当時。現在は、名古屋大学大学院情報学研究科客員教授)、国立大学法人広島大学大学院先進理工系科学研究科の兼松 佑典 助教、および国立大学法人岡山大学異分野基礎科学研究所の武田 修一 特任助教を中心とした研究チームは、蛋白質F型アクチンの1.15 Å 分解能の結晶構造を得て、それに基づき量子化学計算法であるQM/MM計算法を用いて、ATP加水分解反応のメカニズムを解明しました。ATPは地球上の生命のエネルギー通貨です。ATPの化学エネルギーは、ATPアーゼ蛋白質と呼ばれる多くの蛋白質によって、力学的仕事や情報に変換され、種々の細胞機能の発現に利用されますが、蛋白質分子の構造情報の不足によりそのメカニズムはよくわかっていませんでした。本研究では、F型アクチンの構造を反応の始状態と終状態の双方で、他のいかなるATPアーゼ蛋白質で得られていた構造情報より高精細な1.15 Åという高分解能で得て、この問題を解決しました。解明されたATP加水分解反応メカニズムは、これまで提案されていた反応モデルと基本的に一致し、地球上のATPアーゼ蛋白質が共通のメカニズムで働くことを強く示唆します。
 今回解明されたのはATPアーゼ過程全体の前半部分(加水分解反応過程)のみであり、後半部分(Pi解離過程)は、未解明です。今後はPi解離過程の研究が進むことが期待されます。
 本研究成果は、2022年10月18日付アメリカ科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版に掲載されました。

■論文情報
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA
(米国科学アカデミー紀要)

論文タイトル:”Structures and Mechanisms of the actin ATP hydrolysis”
著者:
前田 雄一郎(まえだ・ゆういちろう)名古屋大学大学院・情報学研究科、客員教授
兼松 佑典(かねまつ・ゆうすけ)広島大学・大学院先進理工系科学研究科、助教
武田 修一(たけだ・しゅういち)岡山大学異分野基礎科学研究所、特任助教
成田哲博(なりた・あきひろ)名古屋大学大学院・理学研究科・生命理学専攻、准教授
小田俊郎(おだ・としろう) 東海学院大学・健康福祉学部・総合福祉学科、教授
小池亮太郎(こいけ・りょうたろう)名古屋大学大学院・情報学研究科・複雑系科学専攻、助教
太田元規(おおた・もとのり)名古屋大学大学院・情報学研究科・複雑系科学専攻、教授
鷹野優(たかの・ゆう)広島市立大学大学院・情報科学研究科・医用情報科学専攻、教授
森次圭(もりつぐ・けい)横浜市立大学・生命医科学研究科、特任准教授
藤原郁子(ふじわら・いくこ)長岡技術科学大学・技学研究院・物質生物系、准教授
田中康太郎(たなか・こうたろう)名古屋大学大学院・細胞生理学研究センター・構造生理学分野、助教
小松英幸(こまつ・ひでゆき)九州工業大学・大学院情報工学研究院 ・生命化学情報工学研究系、准教授
永江峰幸(ながえ・たかゆき)東京薬科大学・薬学部・医療衛生薬学科、助教
渡邉信久(わたなべ・のぶひさ)名古屋大学・シンクロトロン光研究センター、教授 (2019.3.26没)
岩佐充貞(いわさ・みつさだ)名古屋大学大学院・情報学研究科・複雑系科学専攻、協力研究員

DOI: 10.1073/pnas.2122641119
URL: https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2122641119

【研究資金】
本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金(科研費)、日本医療研究開発機構(AMED)、豊田理化学研究所、武田科学振興財団、大幸財団、アクチン研究会の支援のもとで行われたものです。


<詳しい研究内容について>
蛋白質アクチンの高分解能構造とATP加水分解反応メカニズムの解明~地球上の生命の最も重要な化学反応の一つの理解の前進~

<お問い合わせ>
【研究者連絡先】
東海国立大学機構 名古屋大学大学院情報学研究科
客員教授 前田 雄一郎(まえだ ゆういちろう)
TEL:090-1912-2973, 052-789-2585 FAX:052-747-6473

広島大学大学院先進理工系科学研究科
助教 兼松 佑典(かねまつ ゆうすけ)
TEL/FAX:082-424-7726

岡山大学異分野基礎科学研究所
特任助教 武田 修一(たけだ しゅういち)
TEL/FAX:086-251-7820

【報道連絡先】
東海国立大学機構 名古屋大学広報室
TEL:052-789-3058 FAX:052-789-2019

広島大学 広報室
TEL:082-424-3749 FAX:082-424-6040

岡山大学総務・企画部広報課
TEL:086-251-7292 FAX:086-251-7294

東海学院大学入試広報部
TEL:058-389-2200 FAX:058-389-2205

広島市立大学 企画室
TEL:082-830-1666 FAX:082-836-1656

横浜市立大学 総務部広報課
TEL:045-787-2414 FAX:045-787-2048

長岡技術科学大学 大学戦略課企画・広報室
TEL:0258-47-9209 FAX:0258-47-9010

九州工業大学広報課
TEL:093-884-3008 FAX:093-884-3533

東京薬科大学総務部広報課
TEL:042-676-6711 FAX:042-674-1633

公益財団法人科学技術交流財団・あいちシンクロトロン光センター
TEL:0561-76-8331 FAX:0561-21-1652

公益財団法人豊田理化学研究所
TEL:0561-63-6141 FAX:0561-63-6327

図1.F型アクチンの高分解能結晶構造(1.15 Å 分解能)の部分。いずれもアクチン蛋白質内に結合した (a) AMPPNP(ATPの構造アナログ)(b) ADP-Pi (c) ADP 各分子とその周辺のMg2+(緑色の球)、水分子の酸素原子(赤色の球)を示す。カゴ状の表示は電子密度分布、点線はMg2+の回りの配位結合。棒と球は、電子密度分布を基に置いた構造モデル。
図2. F型アクチンのATP加水分解反応の反応経路に沿ったポテンシャル・エネルギー・プロファイル。反応の始状態 (R:ATP結合状態)、反応中間状態 (IM)、遷移状態 (TS)、と反応の終状態(P:ADP-Pi結合状態)。始状態の構造から出発して終状態に至る計算結果はオレンジで、終状態の構造から出発して始状態に至る計算結果は青で示す。2つのエネルギー・プロフィルが大きく解離しないこと、さらに計算で得られた始状態・終状態の構造が、それぞれ実験で得られた構造とよく近似していたことは、解明された反応経路がよく辻褄があっていることを示す。反応過程全体は4ステップ(赤表示)に区分できる。
図3. ATPアーゼ蛋白質はATPアーゼ過程によって蛋白質分子内に結合したATPを加水分解し(前半過程)、さらに分解産物(PiとADP)を放出する(後半過程)。上段は、Mg-ATP, Mg-ADP-Pi, Mg-ADPの構造:炭素(桃色)、窒素(青)、リン(朱)、酸素(赤)の各原子とMg2+(緑)。
図4. a. アクチン重合体の形状。扁平なお結び状の分子が個々のアクチン分子。b. アクチン分子の形状は単量体ではG型、重合体中ではF形である。
図5. アクチンのATPアーゼ全過程と、G型・F型の形状変化との関係。-G, -FはそれぞれG型アクチン。F型アクチンを示す。加水分解過程も、Pi放出過程もF型でのみ進行する。
図6. F1A複合体の構造。F1蛋白質(フラグミンのドメイン1部分)とアクチンの1:1複合体の結晶を調製し、そのX線回折強度から求めた構造。空色の表面表示はアクチン、茶色のリボン表示はF1蛋白質。

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