国立大学法人 岡山大学

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BNCTの治療効果向上と適応拡大を可能にするホウ素製剤開発の新たなる指針をシミュレーション解析で検証

2023年05月10日

◆発表のポイント

  • 細胞内局在に着目したホウ素製剤の開発により、従来必要と考えられてきたホウ素送達量よりもはるかに少ない量で細胞死を誘導できうることがシミュレーション解析で判明しました。
  • 細胞内動態を考慮したホウ素製剤の開発により、従来の目標値にとらわれることのない開発が可能となり、新たなホウ素製剤の社会導出が加速することが期待されます。

 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素中性子捕捉反応を用いて癌細胞を細胞レベルで選択的に破壊する放射線治療法です。現在日本で承認されているBPA-BNCTシステムは「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」の治療に対してBoronophenylalanine(BPA)をホウ素製剤として使用しています。BNCTの適応拡大のためには、新たな分子背景を有するホウ素製剤の開発が必要ですが、安全性の懸念や不十分なホウ素送達量のため、BPAのように実臨床レベルにまで開発が進められているものはほとんどないのが現状です。
 今回、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生理学教室 修士課程2年の重平崇文院生と藤村篤史助教、中性子医療研究センターの道上宏之准教授ら、岡山大学病院の西森久和助教と前田嘉信教授らの共同研究グループは、様々な細胞内小器官へホウ素が局所集積した場合の細胞核線量をPHITSによるマイクロドシメトリーで解析し、BPAと同等の線量が期待できるBPA等価線量濃度を推算しました。その結果、理想的なホウ素製剤の特性は核や核小体を標的とするものであり、そのような特徴を有するホウ素製剤が開発された場合、BNCTによる抗癌作用を誘導するのに必要なホウ素送達量を最大で約285倍まで低下させても良いことがわかりました。また、ホウ素製剤の局在によっては、必ずしも核内に送達されなくても十分な効果が見込めることも明らかにしました。このことは、細胞内局在に着目したホウ素製剤開発を行うことで、従来のホウ素製剤開発で癌組織への送達量の目標値とされてきた15〜40ppmといった濃度にとらわれる必要がないことを示唆しており、これまでになかった革新的なホウ素製剤の社会導出を強く後押しするものであると考えています。これにより、新たなホウ素製剤の開発とそれによるBNCTの治療効果向上と適応症例の拡大につながることが強く期待されます。本研究成果は、2023年4月28日に国際科学誌「Advanced Theory and Simulations」のオンラインサイトに掲載されました。

◆研究者からひとこと

所属研究室の先生方や秘書の方、中性子医療研究センターの先生方には日々大変お世話になり、感謝の念に堪えません。また、JAEAの放射線挙動解析研究グループの先生方には、PHITSの使用方法について丁寧にご指導いただきました。ここに厚く御礼申し上げます。本研究が今後のBNCTの発展に繋がれば幸いに思います。今回得られた知見をもとに、さらなる探求に取り組んで参りたいと思います。
重平院生

■論文情報
論 文 名:Particle and Heavy Ion Transport Code System-Based Microdosimetry for the Development of Boron Agents for Boron Neutron Capture Therapy
掲 載 紙:Advanced Theory and Simulations
著  者:Takafumi Shigehira, Tadashi Hanafusa, Kazuyo Igawa ,Tomonari Kasai, Shuichi Furuya, Hisakazu Nishimori, Yoshinobu Maeda, Hiroyuki Michiue, Atsushi Fujimura
D O I:10.1002/adts.202300163
U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/adts.202300163

■研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号JP21K07730、研究代表:西森久和)のご支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
BNCTの治療効果向上と適応拡大を可能にするホウ素製剤開発の新たなる指針をシミュレーション解析で検証


<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院医歯薬学域(医)細胞生理学
助教 藤村 篤史
(電話番号)086-235-7105
(FAX)086-235-7111

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