岡山大学
高輝度光科学研究センター
◆発表のポイント
- 研究グループが独自に開発した高温高圧実験技術により、マントル鉱物ガーネットの高圧相転移圧力の温度依存性が、温度上昇に伴い負から正に変化することを発見しました。
- この正負逆転現象はマントル相転移の常識を覆し、プレートの沈み込みを抑制し、かつプリュームの上昇を促進する2つの役割を担うことを示しています。
- マントル中部で、沈み込んだプレートの滞留やマントル最深部から上昇したプリュームが観測できなくなる原因を説明できることが分かりました。
岡山大学惑星物質研究所の石井貴之准教授、ドイツ連邦共和国バイロイト大学バイエルン地球科学研究所の桂智男教授を始めとする研究グループと、高輝度光科学研究センター、中華人民共和国北京高圧科学研究センター、北京大学、東北大学の研究グループからなる国際共同研究チームは、独自に開発した世界最高精度の高温高圧実験技術により、マントル主要鉱物ガーネットのブリッジマナイトへの高圧相転移(ポストガーネット転移)圧力の温度依存性を精密に決定しました。この研究成果は7月27日(現地時間)、英国の地球科学雑誌「Nature Geoscience」にArticleとして掲載されました。
深さ660~1000 kmで、沈み込むプレートが滞留したり、深部から上昇してきたプリュームが突然見えなくなったりすることが観測されていますが、その原因はこれまで明らかになっていませんでした。今回決定したポストガーネット転移圧力の温度依存性は、温度とともに負から正へと変化し、他のマントル鉱物にはない特異な性質を持つことが分かりました。この性質は、低温のプレートの進行を妨げ、高温のプリュームの上昇を促進します。これにより、上記のプレート滞留とプリューム不可視化がポストガーネット転移によって起こっている可能性を示しました。
◆研究者からひとこと
今回の結果は、放射光施設で2日間に及ぶ“単調”な長時間実験の中で得ることができました。私を含め、その場にいたグループメンバー全員が「もう寝たい」と思っていたはずですが、温度上昇に伴い低下していた転移圧力が、上昇し始めたことを観測したときは、一気に眠気が覚めて、ワクワクしながらこの不思議な現象をみんなで考察したことが印象に残っています。高圧をキーワードにした研究に興味があります。共同研究も大歓迎です! | 石井准教授 |
■論文情報
論 文 名:Buoyancy of slabs and plumes enhanced by curved post-garnet phase boundary
掲 載 紙:Nature geoscience
著 者:Takayuki Ishii, Daniel J. Frost, Eun Jeong Kim, Artem Chanyshev, Keisuke Nishida, Biao Wang, Rintaro Ban, Jianing Xu, Jin Liu, Xiaowan Su, Yuji Higo, Yoshinori Tange, Ho-kwang Mao, Tomoo Katsura
D O I:10.1038/s41561-023-01244-w
U R L:https://www.nature.com/articles/s41561-023-01244-w
■研究資金
本研究は欧州研究会議(研究資金番号:787527)、ドイツ連邦教育科学研究技術省(研究資金番号:05K16WC2)、ドイツ研究振興協会(研究資金番号:IS350/1-1)、中国国家自然科学基金委員会(研究資金番号:U1930401、42150104、92158206)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
独自開発の高温高圧実験技術により、マントル中部の特異な対流現象を解明~原因はマントルに含まれる鉱物の相転移だった!~
<お問い合わせ>
<研究に関すること>
岡山大学 惑星物質研究所
准教授 石井貴之
(電話番号)0858-43-3754
(FAX)0858-43-2184
高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室
主幹研究員 肥後祐司
(電話番号)0791-58-0802(3721)
<SPring-8/SACLAに関すること>
高輝度光科学研究センター
利用推進部 普及情報課
(電話番号)0791-58-2785
(FAX)0791-58-2786