岡山大学
広島市民病院
◆発表のポイント
- 下咽頭がんは頭頚部がんの中でも高頻度かつ予後不良とされていますが、簡便な早期の診断手法がないことが課題となっています。
- 唾液を用いてDNAメチル化解析することで、早期の下咽頭がん患者さんの唾液中DNAにおいてDeleted in Colorectal Cancer(DCC)遺伝子の異常メチル化が高頻度に見られることが確認されました。
- 唾液は簡単に採取可能であり、この技術を応用することで咽頭がんハイリスクの患者さんの早期診断に有用なツールとなることが期待されます。
岡山大学病院消化器内科の平井亮佑医員(岡山大学大学院医歯薬総合研究科博士課程3年在学中)、衣笠秀明助教(研究責任者)、広島市立広島市民病院内科 中川昌浩部長、岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)消化器・肝臓内科学の大塚基之教授らの研究グループは、早期下咽頭がん患者さんの唾液における(DCC)遺伝子のDNAメチル化が、がんのない方の唾液と比較して高頻度で発生しており、この手法を用いることで高い精度で下咽頭がんを診断可能であることを明らかにしました。
この研究成果は、2024年3月27日0時(GMT)に英国Cancer Research UKとSpringer Natureによる学術雑誌「British Journal of Cancer」のオンライン版で公開されます。
これまで上部消化管内視鏡以外の早期診断の手法が存在しなかった口腔内、特に咽頭領域において、唾液という簡便かつ非侵襲的に採取可能な検体を用いることでリスクとなる患者さんを拾い上げることが可能になれば、内視鏡での局所切除による根治治療へとつながる可能性を秘めています。本研究成果の技術を製品化・がん検診に応用し、内視鏡技術と組み合わせることで、全く新しい内視鏡がん診療を構築することが期待されます。
◆研究者からひとこと
体液の中に含まれるがんの細胞を検出し、診断や治療後のモニタリングに活用する技術は“リキッドバイオプシー”と呼ばれ、低侵襲ながん検出手法として注目されています。唾液は極めて容易に、多量に、かつ非侵襲的に採取可能であるため、実用化されればこれまで有用な血液腫瘍マーカーの存在しなかった咽頭領域において、必ず患者さんのお役に立てる技術であると確信しています。 | 平井医員 |
岡山大学病院消化器内科では、内視鏡による咽頭がんの早期診断と治療を積極的に実施していますが、咽頭観察は苦痛を伴うため麻酔が必要であり、胃カメラを受けるすべての患者さんに咽頭の詳細観察を行うことは困難です。今回私たちが検証した手法を用いて、内視鏡による咽頭精密検査が必要なハイリスクの患者さんを事前に判定し、内視鏡による早期発見治療につなげることで、患者さんの生活の質の改善に大きく寄与する技術であると考えています。臨床応用に向け、さらに研究を進めてまいります。 | 衣笠助教 |
■論文情報
論 文 名:Methylation analysis of DCC gene in saliva samples is an efficient method for non-invasive detection of superficial hypopharyngeal cancer
掲 載 紙:British Journal of Cancer
著 者:Ryosuke Hirai, Hideaki Kinugasa*, Shumpei Yamamoto, Soichiro Ako, Koichiro Tsutsumi, Makoto Abe, Koji Miyahara, Masahiro Nakagawa, and Motoyuki Otsuka
*:責任著者
D O I:10.1038/s41416-024-02654-2
U R L:https://www.nature.com/articles/s41416-024-02654-2
■研究資金
本研究は、内視鏡医学研究振興財団(JFE)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
唾液を用いて下咽頭がんを早期に発見可能!~唾液中DNAメチル化評価による早期下咽頭がんの低侵襲で簡便なスクリーニング方法~
<お問い合わせ>
岡山大学病院 消化器内科
助教 衣笠 秀明
(電話番号)086-235-7219
(FAX)086-225-5991