◆発表のポイント
- 種子に蓄積するデンプン粒の形が変化した複数のオオムギの変異体を発見しました。
- これらの変異は、単独でもデンプン粒の形を変化させますが、二つの変異を組み合わせることでより劇的にデンプン粒の形を変えたり、また組み合わせによっては変異の効果を弱めたりすることが分かりました。
- デンプン粒の形は、デンプンの精製効率や加工特性等に影響する重要形質です。今回得られた知見や材料は、デンプン粒の形を人為的にデザインする技術につながる可能性があります。
デンプンはブドウ糖(グルコース)が鎖のようにつながった物質で、あるところではグルコースが直線状に、またあるところでは枝分かれしてつながっています。デンプンは穀物の種子中の70%以上を占めていて、植物が発芽する時のエネルギー源として使われます。穀物の種子は人間にとって主食であり、デンプンは人類にとっても大切なエネルギー源です。
デンプンは漢字で書くと「沈殿する粉」という意味の”殿粉”になり、細胞内では不溶性で、デンプン粒という粒子を形成します。私たちは、種子中のデンプン粒を簡便に観察する方法を用いて、デンプン粒の形が普通品種と異なる変異体の探索を行いました。
今回、普通品種のオオムギよりもデンプン粒が細長くなるhvbe2a変異体を単離しました。hvbe2a変異体では、デンプンのグルコース鎖の枝分かれを作る酵素の遺伝子に変異が生じていました。以前単離していたデンプン粒の形が普通品種と異なるhvisa1変異体やhvflo6変異体との交配により多重変異体を作成した結果、hvbe2a変異はhvisa1変異の効果を打ち消すこと、またhvbe2a変異とhvflo6変異を組み合わせると表現型が相加的にあらわれることを、岡山大学資源植物科学研究所の松島 良准教授らが明らかにしました。これらの単独変異体や多重変異体では、普通品種とは異なるさまざまな形のデンプン粒が形成されました。デンプン粒の形は、デンプンの精製効率や加工特性等に影響する形質であり、今回の知見はデンプン粒の形の人為的なデザイン技術につながる可能性があります。
本研究成果は、日本時間 8月31日、国際科学雑誌「Theoretical and Applied Genetics」オンライン版で早期公開されました。
◆研究者からひとこと
これまでにデンプン粒を簡便に観察する方法を開発し、イネとオオムギを用いてデンプン粒の形に関係する変異体の単離を行ってきました。同じ方法を用いれば、他の作物でもデンプン粒の形に関係する突然変異体を単離できると思います。モチ米やスイートコーンのように長く愛されるデンプン関連の変異体を開発したいと思っています。 | 松島 准教授 |
■論文情報
論 文 名:Mutations in starch BRANCHING ENZYME 2a suppress the traits caused by the loss of ISOAMYLASE1 in barley
掲 載 紙:Theoretical and Applied Genetics 137: 212 (2024)
著 者:Ryo Matsushima, Hiroshi Hisano, June-Sik Kim, Rose McNelly, Naoko F. Oitome, David Seung, Naoko Fujita, Kazuhiro Sato
D O I:10.1007/s00122-024-04725-7
U R L:https://link.springer.com/article/10.1007/s00122-024-04725-7 (オープンアクセス)
■研究資金
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(研究者: 松島 良、研究期間: 2023年4月 - 2026年3月, No. 23K05167)、新エネルギー・産業技術開発機構 官民による若手研究者発掘支援事業(研究者: 久野裕・松島良、研究期間: 2021年1月 - 2023年1月)、食生活研究会(研究者: 松島 良、研究期間: 2023年4月 - 2024年3月)、アサヒグループ財団(研究者: 松島 良、研究期間: 2023 年4月 - 2024年3 月)、G-7奨学財団(研究者: 松島 良、研究期間: 2024 年 1 - 12 月)ならびに大原奨農会の支援を受けて実施しました。また、研究資金として個人的なご寄付を松島三雄氏(研究代表者の叔父)より受けました。研究材料については、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(オオムギ)の支援を受けました。
<詳しい研究内容について>
デンプン粒子の形を変える遺伝変異の発見
<お問い合わせ>
岡山大学 資源植物科学研究所
准教授 松島 良
(電話番号)086-434-1224