◆発表のポイント
- 食道がんの手術後は、口腔機能が低下して誤嚥などが起こりやすく、安全かつ有効な予防方法が切望されていました。
- ガムを噛むトレーニングによって、食道がん術後の合併症を予防する可能性が示されました。
岡山大学病院歯科・予防歯科部門の山中玲子助教、同大学術研究院医歯薬学域(歯)予防歯科学の江國大輔教授らのグループと、消化管外科・野間和広講師らのグループ、集中治療部・清水一好講師、新医療研究開発センター・三橋利晴助教を含む研究グループは、手術前後の「ガム咀嚼トレーニング」が、食道がん術後の口腔機能低下や、発熱などの術後合併症予防に有用であることを世界で初めて確認しました。これらの研究成果は10月12日、イギリスの総合科学雑誌「Scientific Reports」、コレクション「全身と口腔の健康」のResearch Articleとして掲載されました。
これまで、歯科医師や歯科衛生士が行う専門的な口腔清掃を主体とする手術前の口腔管理が、術後の感染予防などに有用であることが確認されてきました。今回、専門的な口腔清掃に加えて、患者さん自ら、楽しく、簡単に、安価に実践できる「ガム咀嚼トレーニング」が、口腔機能を向上させ、術後の合併症を予防する可能性が示されたことは画期的です。
特に誤嚥リスクの高い、食道がん術後患者さんにおいて、安全性と有効性が確認されたことから、オーラルフレイル1)に悩む数多くのみなさまにとって、役に立つ可能性があります。
◆研究者からひとこと
患者さんはもちろんのこと、歯科、外科、麻酔科、統計、看護などのさまざまな専門家のご協力により安全に成し遂げることができました。COVID-19パンデミックの最中に行った研究であり、検診や病院の受診控えにより食道がんが重症化して手術を受けた患者さんが多かったのですが、その中で安全性や有効性を確認できたことは、この研究の意義をさらに大きくしています。 今回、ガムを噛んでもらうだけではなく、専門的な口腔衛生処置やガムを使用した舌のストレッチも行っています。きれいで噛めるお口の状態で、舌のストレッチも実施することが、より高い効果が得られるポイントと考えられます。おいしく、味持ちがよく、噛み心地のよいガムで実施できたのが、楽しく継続できたポイントかもしれません。ICUの看護師さんからは、何も食べることができない術後の絶食期間中に味のあるものを少しでも口にできたのは、心理的にもよかったのかも、というお話がありました。患者さんからは、手術に対して不安がある中、ガムを噛んでいるときは不安が和らいでよかったとの感想もありました。 | 山中助教 |
■論文情報
論 文 名:Perioperative gum-chewing training prevents a decrease in tongue pressure after esophagectomy in thoracic esophageal cancer patients: a nonrandomized trial
掲 載 紙:Scientific Reports
著 者:Reiko Yamanaka-Kohno, Yasuhiro Shirakawa, Aya Yokoi, Naoaki Maeda, Shunsuke Tanabe, Kazuhiro Noma, Kazuyoshi Shimizu, Toshiharu Mituhashi, Yoshihide Nakamura, Souto Nanba, Yurika Uchida, Takayuki Maruyama, Manabu Morita, Daisuke Ekuni
D O I:https://doi.org/10.1038/s41598-024-74090-4
発表論文はこちらからご確認できます。
U R L:https://www.nature.com/articles/s41598-024-74090-4
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤研究(C)・19K10444、研究代表:山中玲子)、公益財団法人8020研究財団「令和4年度8020公募研究事業」(22-3-11、研究代表:山中玲子)の支援を受けて実施しました。
また、本論文のオープンアクセス化は、文部科学省「オープンアクセス加速化事業」の取り組みの一環で実施している「インパクトの高い国際的な学術誌へのAPC支援」による支援を受けています。
<詳しい研究内容について>
世界初!ガムを噛むトレーニングが食道がん術後の誤嚥、発熱予防に有用であることを発見
<お問い合わせ>
岡山大学病院 歯科・予防歯科部門
助教 山中 玲子
(電話番号)086-235-6712
(FAX)086-235-6714