国立大学法人 岡山大学

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神経回路形成に必要な神経細胞の動きを制御する新規分子メカニズムを発見

2013年03月06日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科生化学分野の山田浩司准教授、竹居孝二教授のグループは、神経回路網の形成に必要な神経細胞の突起伸縮を制御する機構を発見しました。
 神経細胞は、各細胞間で突起を介して神経回路網を形成しています。神経回路網は私たち人間の神経によるコントロールの基礎となるものであり、脳が筋肉や臓器を動かし、学習や感情などの高次機能を発揮するためには、神経回路がしっかりと形成されることが不可欠です。神経細胞の突起は、伸縮を繰り返しながら標的の神経細胞と回路を作っていきます。この過程の異常は神経回路網の形成不全をもたらし、自閉症、統合失調症、てんかん等の精神神経疾患や神経の麻痺につながります。
 今回、神経細胞が突起先端部のアクチン線維からなる骨格を組みなおすことにより、神経突起の伸縮を制御する機構を発見しました。今後、神経変性疾患の発症機序や脊椎損傷患者の神経回路再生機構の解明、その新規治療法への応用が期待されます。
 本研究成果は、2013年3月6日の米神経科学会雑誌「The Journal of Neuroscience;ジャーナル オブ ニューロサイエンス 3月6日号」に公開されました(冊子体およびオンライン版)(報道解禁時間、米国東部標準時3月5日17:00)。
<研究背景>
 神経細胞は、各細胞間で突起を介して神経回路網を形成しています。この回路網は、私たち人間の学習機能や感情の基礎となっているだけでなく、全身にも存在し、体や臓器を動かすための司令塔として働いています。発生過程では、神経細胞は突起を形成し(注1)、伸縮を繰り返し、標的の神経細胞と回路を作っていきます。突起先端部では、成長円錐(図1)と呼ばれるアメーバ状の構造があり、細胞外部の誘因因子や反発因子を感知して、その形態及び運動性を変化させ進行方向をガイダンスしています。成長円錐(注2)ではアクチン(注3)と呼ばれる細胞の骨格となる分子が濃縮されており、この分子が重合することで成長円錐が前進し、神経突起が伸展します。しかしながら、神経突起形成においてアクチンの動態が重要であるにもかかわらず、その制御機構はよくわかっていませんでした。そこで、私たちはアクチンの動態を制御する分子の解析を行いました。

<研究結果>
 私たちは、この制御分子がダイナミン1とコルタクチンからなるタンパク複合体(ダイナミン1・コルタクチン複合体)であると同定しました。この複合体は、成長円錐の構造を支持している骨組みであるアクチン線維束に沿って集積していました。培養した神経細胞のダイナミン1の機能を阻害すると、アクチン線維が不安定化し成長円錐の急速な退縮が起こりました(図2A)。また、コルタクチンの発現抑制も成長円錐の形成不全をもたらしました(図2B)。ダイナミン1・コルタクチン複合体のアクチン動態に対する効果をさらに詳しく調べたところ、ダイナミンの持つ構造的特性により複合体の形は直線状からリング状に変化し、リングの間に数本のアクチン線維を包み込み、複合体自身が結束バンドとなってアクチン線維を束化することが明らかになりました(図3)。さらに、束化されたアクチン線維がより安定であることもわかりました。成長円錐の中でアクチン線維が束化され、骨組みが安定化することが神経突起伸長のメカニズムの一部であると判明しました(図4)。以上の結果から、ダイナミン1・コルタクチン複合体によるアクチン制御は、神経細胞の成長円錐の形態、運動性を制御していると結論しました。

<今後の期待>
 今回の研究で、神経突起の伸長を司る成長円錐の形態・運動性は、ダイナミン1・コルタクチン複合体がアクチン線維の骨組み制御することにより起こることを明らかにしました。複合体が形を変化させてアクチン線維を束ねたりほどいたりする働きは、ダイナミン1の構造的特性によるものであるため、ダイナミン1はこのプロセスの最重要分子といえます。一方、ダイナミンは、神経変性疾患や筋萎縮疾患の原因遺伝子の一部であることも知られています。ダイナミンを中心に行なってきた私たちの研究が、今回の発見をきっかけにさらに進むことで、今後、神経変性疾患の発症機序や脊椎損傷患者の神経回路再生機構の解明、その新規治療法への応用が期待されます。

<論文名>
Stabilization of actin bundles by a Dynamin 1 / Cortactin ring complex is necessary for growth cone filopodia.
(ダイナミン・コルタクチンからなるリング状複合体がアクチン線維を束化し、安定化する。この安定化は、成長円錐の糸状仮足形成に必要である。)
Hiroshi Yamada, Tadashi Abe, Ayano Satoh, Nana Okazaki, Shota Tago, Kinue Kobayashi, Yumi Yoshida, Yoshiya Oda, Masami Watanabe, Kazuhito Tomizawa, Hideki Matsui, Kohji Takei. J. Neuroscience in press

報道発表資料はこちらをご覧ください

<問い合わせ先>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 生化学分野
山田 浩司 准教授
竹居 孝二 教授
TEL:086−235−7120

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