動脈硬化に関わる脂質代謝異常に歯周病が関連
2014年08月26日
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野の工藤値英子助教と高柴正悟教授らの研究グループが、歯周病の原因細菌の一つであるポリフィロモナス ジンジバリス菌に対する血液中の免疫グロブリンG抗体価が高い歯周病患者では、動脈硬化に関わる悪玉コレステロールの値が高いことを、東京都と千葉県の開業医(歯科医師と内科医師)のコンソーシアムによる臨床観察研究によって突き止めました。
本研究成果は、2014年8月14日に日本の英文歯科学雑誌『Odontology』に掲載されました。
これまで、歯周病が動脈硬化に関連することが指摘されてきました。また、マウスを用いた研究で、歯周病細菌の感染が脂質代謝に影響することで動脈硬化を悪化させることが示されてきました。
今回の成果は、ヒトにおいても歯周病細菌の感染が脂質代謝異常の原因となり得ることを示しています。現在進行している研究では、本研究の患者の歯周病を治療することによって脂質代謝異常や動脈硬化へ与える影響が調べられています。今後は、動脈硬化の原因の一つに歯周病があることが分かるかもしれません。
<業 績>本研究成果は、2014年8月14日に日本の英文歯科学雑誌『Odontology』に掲載されました。
これまで、歯周病が動脈硬化に関連することが指摘されてきました。また、マウスを用いた研究で、歯周病細菌の感染が脂質代謝に影響することで動脈硬化を悪化させることが示されてきました。
今回の成果は、ヒトにおいても歯周病細菌の感染が脂質代謝異常の原因となり得ることを示しています。現在進行している研究では、本研究の患者の歯周病を治療することによって脂質代謝異常や動脈硬化へ与える影響が調べられています。今後は、動脈硬化の原因の一つに歯周病があることが分かるかもしれません。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野の工藤値英子助教、前田博史准教授、高柴正悟教授の研究グループは、東京都と千葉県の開業医(歯科医師と内科医師)のコンソーシアムと共同で臨床観察研究を3年2ヵ月間行い、平均年齢60歳の男女各45人(計90人)の歯周病状態を臨床観察と歯周病の原因細菌の一種であるポリフィロモナス ジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)の感染度を血液で検査。同時に、動脈硬化の状態を超音波検査と動脈硬化に関わる血液中の因子の検査を行いました。その結果、ポリフィロモナス ジンジバリス菌に対する免疫グロブリンGの値が高い患者では悪玉コレステロールである低比重リポタンパク(LDL-C)の値が高いことがわかりました(図)。
LDL-Cは、高脂血症を含めた脂質代謝異常症に関わるもので、動脈硬化が起こる際に血液中の量が増加することがよく知られています。動脈硬化になると、頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)が大きくなります。一方で、マウスへ歯周病細菌を感染させるこれまでの実験において、脂質代謝異常症が起こってLDL-Cの値が高くなることが報告されてきました。また、口の中にポリフィロモナス ジンジバリス菌が多いとIMTが厚く、歯周病治療によってポリフィロモナス ジンジバリス菌が減ると厚かったIMTの厚みが減少したという臨床研究もあります。
今回の研究は、歯周病の病状を血液検査によって得たポリフィロモナス ジンジバリス菌の感染度で捉え、動脈硬化に関連するLDL-Cの値に関係するということを示した初めての研究になります。すなわち、真のエンドポイントである歯周病重症度と動脈硬化を直接に調べるのではなく、間接的に調べた抗体価とLDL-C{これらはバイオマーカー(生物学的指標)に相当}をサロゲートマーカー(代用マーカー)として用いて間接的に調べています。
図.ポリフィロモナス ジンジバリス菌の血漿(けっしょう)免疫グロブリンG抗体価が高いと、LDL-Cの値が高い{IgG抗体価は、閾値(1.68)の2倍(3.36)、3倍(5.04)、4倍(6.72)として、LDL-C値との関係を調べています}
<見込まれる成果>
これまで歯周病が影響を与える疾患として、動脈硬化、心血管障害、糖尿病などが考えられてきました。本研究成果によって、ポリフィロモナス ジンジバリス菌の感染度を血液で検査することの有用性が示されました。今後、本検査方法を用いて歯周病との関連を調べることで、これらの疾患の原因解明につながると期待されます。
また、歯周病(成人のほとんどが罹っている)の重症度を調べる検査指標として使用することで、これらの疾患に対する適切な治療を行うことができます。
<補 足>
今回の研究で用いたポリフィロモナス ジンジバリス菌の感染度調べる血液検査技術は、平成20年9月26日に『「「歯周病原菌 血漿抗体価検査システム」の開発 −少量の血液での歯周病検査法−』として、岡山大学から記者発表された、『指尖微量採血による歯周病検査キット』を使用しています。
本研究の一部は、特定非営利活動法人日本歯周病学会の平成22年度企画調査研究助成の援助を受けて実施しました。また、本研究の大部分は、岡山大学の運営費交付金で実施しました。
発表論文はこちらからご確認いただけます。
発表論文:Chieko Kudo, Wee Soo Shin, Masato Minabe, Kazuo Harai, Kai Kato, Hiroaki Seino, Eiji Goke, Nobuhiro Sasaki, Takemasa Fujino, Nobuichi Kuribayashi, Youko Onuki Pearce, Masato Taira, Hiroshi Maeda, Shogo Takashiba, Periodontitis and Atherosclerosis Project - Tokyo and Chiba Consortiums. Analysis of the relationship between periodontal disease and atherosclerosis within a local clinical system: a cross-sectional observational pilot study. Odontology, DOI 10.1007/s10266-014-0172-3 Online First.
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<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
歯周病態学分野 教授 高柴 正悟
(電話番号)086-235-6675, 6677
(FAX番号)086-235-6679