生体組織のガラス転移温度を世界で初めて測定~トレハロースの保護作用解明など、医療分野へのさらなる応用に期待~
2014年09月10日
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学分野の河田哲宏医師(同研究科大学院生、岡山大学病院医員)、松尾俊彦准教授、大学院自然科学研究科高分子材料学分野の内田哲也准教授の医工連携1)研究グループが、生体組織のガラス転移温度2)を測定することに世界で初めて成功しました。
本研究成果は、2014年6月25日にアメリカのオンライン科学雑誌『Springer Plus』に掲載されました。
ガラス転移温度は、プラスチックなど高分子材料の物性指標として広く使われています。研究グループは、ブタ眼球の水晶体(レンズ)を糖の一種である「トレハロース(trehalose)」の溶液に保存。その後、乾燥させた水晶体を高分子複合材料とみなすことによって、生体組織である水晶体のガラス転移温度を測定することに成功しました。
今回の測定の成功によって、眼科などの医学分野の様々な応用研究だけではなく、生体組織におけるトレハロース保護作用の解明など、医療分野で役立つものと大いに期待されます。
<業 績> 本研究成果は、2014年6月25日にアメリカのオンライン科学雑誌『Springer Plus』に掲載されました。
ガラス転移温度は、プラスチックなど高分子材料の物性指標として広く使われています。研究グループは、ブタ眼球の水晶体(レンズ)を糖の一種である「トレハロース(trehalose)」の溶液に保存。その後、乾燥させた水晶体を高分子複合材料とみなすことによって、生体組織である水晶体のガラス転移温度を測定することに成功しました。
今回の測定の成功によって、眼科などの医学分野の様々な応用研究だけではなく、生体組織におけるトレハロース保護作用の解明など、医療分野で役立つものと大いに期待されます。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学分野の河田哲宏医師(同研究科大学院生、岡山大学病院医員)、松尾俊彦准教授、大学院自然科学研究科高分子材料学分野の内田哲也准教授の医工連携研究グループ3名が、生体組織のモデルとしてブタ眼球の水晶体(レンズ)のガラス転移温度を測定することに世界で初めて成功しました。
研究グループは、生体組織を高分子からなる複合材料と考えて、人工材料のプラスチックに対する解析のようにガラス転移温度を熱量計で測定。ブタの水晶体組織のガラス転移温度が60度前後であることを突き止めました(図1)。
また、ブタの水晶体をそのまま乾燥した状態とトレハロース溶液に保存した後に乾燥した状態を比較。ガラス転移温度自体に有意な変動は生じませんでしたが、トレハロースで保存した後に乾燥した水晶体では、ガラス転移温度が明瞭に測定できるという現象が見られました。
図1.トレハロースで保存したブタの水晶体組織でのガラス転移温度の測定結果(矢印は、ガラス転移温度を示す)
<見込まれる成果>
トレハロースは、食品の鮮度を保つための食品添加物として、また、抗体医薬品などを安定化させるための医薬品添加物として使われています。また、乾燥下でも細胞が死なない特性を生かして、ドライアイに対する点眼薬としても海外で市販されています(日本ではまだ市販されていません)。
しかし、どのようにして生体組織やタンパク質を安定にするのかは分かっていません。トレハロースの作用を考えるヒントとして、ガラス転移温度の影響が挙げられていましたが、これまでのところ、実際に生体組織でガラス転移温度を測定することができませんでした。
本研究によって、生体組織でもガラス転移温度が測定できることが初めて明らかになりました。今後、生体組織におけるトレハロースの保護作用の解明や医療分野におけるさらなる利用への大きな手がかりになると期待されます。
<補 足>
1)医工連携:
医学研究と工学研究、それぞれの強みを融合することで、いままで解き明かすことが困難であった課題を解決したり、今までにない革新的な発見、発明を引き起こすことを目的としています。松尾准教授と内田准教授は、長らく医工連携研究を進めており、その中で「岡山大学方式人工網膜」は革新的な研究成果として、劇的なイノベーション創出につながる成果として注目されています。
http://achem.okayama-u.ac.jp/polymer/hyoushi.html
2)ガラス転移温度:
プラスチックは常温では硬いが、温めると柔らかくなり、さらに温度を上げると溶けます。この硬い状態から柔らかい状態に変わる瞬間の温度をガラス転移温度と呼びます。私たちヒトの体や動植物も、多種多様な高分子からできています。生体組織を高分子からなる複合材料と考えて、人工材料のプラスチックに対する解析のようにガラス転移温度を測定すると、今まではわからなかった情報が得られます。
発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Kawata T, Matsuo T, Uchida T. Glass transition temperature of dried lens tissue pretreated with trehalose, maltose, or cyclic tetrasaccharide. Springer Plus, 2014, 3:317 ; (doi: 10.1186/2193-1801-3-317)
報道発表資料はこちらをご覧ください
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
眼科学分野 准教授 松尾 俊彦
(電話番号)086-235-7297
(FAX番号)086-222-5059
(URL)//www.okayama-u.ac.jp/user/opth/index.htm