自殺リスクの社会的・地理的格差拡大を明らかに
2013年06月03日
本学大学院医歯薬学総合研究科の鈴木越治助教(疫学・衛生学分野)らが、日本における1975年から2005年の自殺リスクの推移を評価したところ、男性では専門職や管理職等で自殺リスクが著しく増加するなど、リスクの社会的格差が広がる一方で、女性では全体的にリスクが低下傾向にあることが示されました。また、男性においては、地理的格差が1995年以降著しく拡大(リスクが最も高い秋田県と最も低い奈良県で2.45倍の差)していることが示唆されました。本研究成果は2013年5月6日に米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』に掲載されました。
本研究により、社会問題となっている自殺のリスクを明確にすることができ、今後の自殺予防に大きな貢献が期待されます。
<業 績>本研究により、社会問題となっている自殺のリスクを明確にすることができ、今後の自殺予防に大きな貢献が期待されます。
自殺は、わが国の公衆衛生における重要な課題の一つとなっています。これまでの国内外の研究で、景気の悪化と自殺者数の増加に関連があることが示唆されていますが、日本における自殺格差が、社会的または地理的にどのような変遷を辿っているのかに関しては今まで明らかになっていませんでした。この度、岡山大学、広島大学、ハーバード大学の共同研究グループ4名(鈴木越治(岡山大学)、鹿嶋小緒里(広島大学)、Ichiro Kawachi(ハーバード大学)、S. V. Subramanian(ハーバード大学))は、日本における自殺リスクの社会的・地理的格差の推移について検証し、その研究結果について報告をしました。
本研究では、人口動態統計や国勢調査をもとに、25歳から64歳の全人口を対象として、1975年から2005年までの30年間にわたり、自殺リスク格差の推移を5年ごとに分析しました。
年齢や居住地を統計学的に調整し分析した結果、男性において自殺リスクの社会的格差は大きく拡大しており、格差のパターンも顕著に変化していることが示されました。特に注目すべき点として、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、保安職業従事者の自殺リスクは1975年時点では最も低かったものの、この30年間で著しく増加していることが示唆されました(図1)。また、地理的格差の推移を評価するために、都道府県ごとの年齢層や職業構成の偏りを統計学的に調整した上で分析した結果、1975年時点では格差は目立たなかったものの、特に1995年以降、男性の自殺リスクが東北地方を中心として顕著に増加していることが示されました(図2)。2005年には、男性で自殺リスクが最も高い秋田県と低い奈良県の間で約2.45倍の差があり、女性で最も高い岩手県と低い神奈川県とでは、約1.51倍の差があることが示されました。
図1.男性における自殺リスクの社会的格差の推移(doi:10.1371/journal.pone.0063443.g002を改変)
図2.男性における自殺リスクの地理的格差の推移(doi:10.1371/journal.pone.0063443.g005を改変)
<見込まれる成果>
近年、わが国における健康格差の拡大が懸念されており、自殺の社会的格差や地理的格差は、この点で重要な公衆衛生上の課題となっています。自殺の原因は一般的に、個人の特性(心理的(メンタル)疾患、遺伝的な要因、身体的疾患、精神的孤独、等)と個人を超えた社会経済的特性(地域の平均収入、収入格差、ストレスとなる社会的なイベント、マスコミ報道、等)に分類されており、両者が相互に影響を及ぼし合って自殺に追い込まれると考えられています。本研究成果を更に発展させて、特定の社会経済的特性に対する自殺ハイリスク集団を同定することは、効果的な自殺予防対策を検討する上で重要であると考えられます。
<補 足>
本研究では、自殺リスクの社会的格差と地理的格差を評価するため、マルチレベル分析という統計学的手法を用いました。これまでの研究では、健康格差を評価する際に、地理的格差を無視して社会的格差のみを評価したり、社会的格差を無視して地理的格差のみを評価したりすることが一般的でした。本研究は、自殺リスクの社会的格差と地理的格差の両者を同時に評価することにより、自殺リスク格差の全体像を捉えることを目指した先駆的な研究です。
本研究は、6月にアメリカ・ボストンで開催される第46回疫学研究学会年次総会(46th Annual Meeting of the Society for Epidemiologic Research)でも発表します。
発表論文はこちらからご確認いただけます
自殺リスクの地理的格差の推移を示したビデオ(MOV形式)はこちらから確認いただけます
発表論文:Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV. Social and geographical inequalities in suicide in Japan from 1975 through 2005: a census-based longitudinal analysis. PLoS ONE. 2013;8(5):e63443. (doi:10.1371/journal.pone.0063443)
報道発表資料はこちらをご確認ください
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
疫学・衛生学分野 助教
(氏名)鈴木 越治
(電話番号)086-235-7174