国立大学法人 岡山大学

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メラトニンがクッシング病の原因ホルモン抑制に有効

2013年06月04日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の大塚文男教授(総合内科学分野)、岡山大学病院内分泌センターの塚本尚子助教らの内分泌研究グループは、日内リズムや睡眠に重要なホルモンであるメラトニンが、脳下垂体の腫瘍の病気であるクッシング病の原因となるホルモンの抑制に有効であることを、マウスのモデル細胞を用いて初めて突き止めました。本研究成果は2013年5月20日に内分泌学の国際誌『Molecular and Cellular Endocrinology』に掲載されました。
 クッシング病は、厚生労働省の特定疾患に指定されている脳下垂体の病気であり、高血圧、糖尿病・肥満、骨粗鬆症、感染症などの様々な症状を呈する難病です。脳外科的な下垂体腫瘍の手術が治療として選択されますが、手術は困難な場合が多く、手術ができない場合には、薬物治療が期待されます。しかしながら、これまで有効な薬剤がないのが現状の問題です。この研究成果は、クッシング病の薬物療法への新たな切り口として注目されます。
<業 績>
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の大塚文男教授(総合内科学分野)、岡山大学病院内分泌センターの塚本尚子助教らの内分泌研究グループは、クッシング病モデル細胞(マウスAtT20細胞)を用いて、メラトニンの作用がクッシング病の原因となる副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を抑制することを明らかにしました。
 メラトニンは、日内リズムを作るホルモンとして、脳の松果体という内分泌腺から産生されています。メラトニンは眼に入る光とともに体内時計の役割を担っており、夜に多く分泌されて睡眠を促し、体を休ませる働きがあります[1]。メラトニンは、不眠治療や時差ボケの解消にも利用されていますが、この物質の作用が、難病であるクッシング病の原因となるACTHというホルモンの分泌を抑制することを初めて明らかにしました(図1)。
 クッシング病とは、副腎皮質ステロイドホルモンが過剰に分泌され、高血圧や糖尿病・肥満、筋肉の萎縮や骨粗鬆症などを生じる病気です[2]。脳下垂体の腫瘍からACTHが過剰に分泌されることが原因であり、腫瘍を手術で取り除くことが治療の第一選択ですが、腫瘍が小さいためMRI検査でも見つかりにくいことが多く、さらにACTHの分泌を抑え有効な薬剤がほとんど無いことが治療を困難とさせています。
 今回の研究成果では、正常では認められるACTHの1日の分泌リズムが、クッシング病では消失していることに着目しました。日内リズムの決定に重要なメラトニンのACTH分泌への影響を検討したところ、ACTH分泌への抑制効果が認められました。また、脳下垂体でACTHの分泌を抑制するBMP-4というタンパク質の働きを強化することで、これらのメラトニンの作用が発揮されることを突き止めました。


図1.クッシング病の病態とメラトニン作用の可能性

<見込まれる成果>
  これまで有効な薬物治療が無かったクッシング病において、メラトニンの作用がACTHを抑制することがクッシング病のモデル細胞を用いて明らかとなりました。現在メラトニンは、不眠・時差ぼけの薬やサプリメントとして用いられています。今後、更なる研究を経て、メラトニンをACTH分泌の抑制薬から、クッシング病の新たな治療薬へと応用・発展できる可能性が期待されます。

<補 足>
[1] メラトニンは、脳の中の松果体という内分泌腺で作られますが、その分泌リズムは眼から入る光を受けて、脳の視床下部という部位の一部である視交叉上核という神経核が司っています。メラトニンの血中濃度は1日のサイクルで変化しており、生体の様々な機能に概日リズムを作っています。メラトニンは夜間に多く分泌され、睡眠を促し、体を休ませる働きがあります。また、メラトニンは抗酸化作用を持つことも知られており、米国では栄養補助食品やサプリメントとして販売されています。メラトニンは不眠治療に用いられるほか、時差ボケの解消にも使用されています。

[2] 副腎皮質ステロイドホルモンの1つであるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌され、特徴的な身体所見を示す病気をクッシング症候群と言います。コルチゾールは、脳下垂体から出てくるACTHというホルモンの命令で副腎皮質から分泌されます。脳下垂体の腫瘍からACTHが過剰に分泌されておこる病気を「クッシング病」と呼びます。ACTHの分泌過剰により副腎からのステロイドホルモン分泌が亢進し、糖尿病や高血圧、骨粗鬆症などの生活習慣病が悪化します。また、手足の皮膚が薄くなり、皮下の血管が透けて赤い筋ができたり、おなか周りが肥満となり手足の筋肉は萎縮してきます。打ち身などにより、出血しやすくなり、むくんだ丸い赤ら顔になります。病気が進行すると病原微生物に感染しやすくなったり、心臓の機能が低下する心不全へ進行します。現在、原因となる下垂体腫瘍を手術で取ってしまうのが治療の第一選択ですが、腫瘍が小さいことが多いのでMRI検査でも見つかりにくいことが多く、ACTHの過剰な分泌を抑える良い薬剤がほとんど無いのが現状です。クッシング病は、日本では年間100例ほどの少ない発生頻度の難病に指定されています。

本研究は独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費を受けて実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23701823
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0303720713002141

発表論文:Tsukamoto N, Otsuka F, Ogura-Ochi K, Inagaki K, Nakamura E, Toma K, Terasaka T, Iwasaki Y, Makino H. Melatonin receptor activation suppresses adrenocorticotropin production via BMP-4 action by pituitary AtT20 cells. Mol Cell Endocrinol. 2013 May 20. (doi: 10.1016/j.mce.2013.05.010.)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
総合内科学 教授
(氏名)大塚 文男
(電話番号)086-235-7342
(FAX番号)086-235-7345
(URL)http://okayama-u-sougounaika.jp/

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