◆発表のポイント
- ヒトの口腔がんにおいて、腫瘍に栄養を供給する血管に、ケモカインレセプターの一種であるCXCR4が多数発現していることを発見しました。
- CXCR4を阻害すると、特徴的な腫瘍壊死を起こすことが分かりました。
- 新たな抗腫瘍血管治療や、薬剤耐性を獲得した腫瘍の治療につながることが期待されます。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科口腔病理学分野(長塚仁教授)の河合穂高助教と吉田沙織大学院生、および歯科薬理学分野(岡元邦彰教授)の江口傑徳助教の共同研究グループは、口腔がんに栄養を供給する血管に発現するケモカインレセプター・CXCR4を阻害することで、特徴的な腫瘍壊死(TAITN、Tumor Angiogenic Inhibition Triggered Necrosis)が引き起こされることを発見しました。これらの研究成果は7月22日、スイスの学術誌「Cells」のResearch Articleとして掲載されました。
腫瘍組織は組織の維持、増殖のために多くの酸素や栄養が必要です。その酸素や栄養は、腫瘍組織の中を走る腫瘍血管から摂取しています。そのため近年では、腫瘍血管を標的とした抗腫瘍血管治療が行われていますが、腫瘍が薬剤耐性を獲得し効果がなくなってしまうことが問題で、これは腫瘍が複数の種類の腫瘍血管形成経路を駆使して自らの生存を図っているからだと考えられます。本研究は、従来の抗腫瘍血管治療とは異なる血管新生の経路に着目した研究であり、非常にユニークな腫瘍壊死パターンを報告しています。また、得られた知見は今後の新たな抗腫瘍血管治療の足がかりになると共に、薬剤耐性を獲得した腫瘍に対する次の一手になる可能性を秘めた成果です。
◆研究者からのひとこと
薬剤を投与したマウスの組織に特徴的な壊死組織を発見できたことが、この研究の始まりでした。組織診断の技術が素晴らしいアイデアにつなげられたことがとてもうれしかったです。研究をさらに発展させ、少しでもがんに苦しむ患者さんの助けになるよう頑張ります。 | 河合助教 |
CXCR4を阻害する薬剤は連日投与する必要があり、実は動物に触るのが苦手な私は毎回冷や汗をかきながら頑張りました。標本作製や壊死領域の計測、血管形態の観察など、地道で丁寧な作業が研究に不可欠であることを改めて実感しました。腫瘍血管形成の詳細なメカニズムを明らかにすべく、これからも研究を続けていきたいです。 | 吉田大学院生 |
■論文情報論文名:Tumor Angiogenic Inhibition Triggered Necrosis (TAITN) in oral cancer掲載誌:Cells著 者:Saori Yoshida, Hotaka Kawai*, Takanori Eguchi*, Shintaro Sukegawa, May Wathone Oo, Chang Anqi, Kiyofumi Takabatake, Keisuke Nakano, Kuniaki Okamoto, Hitoshi Nagatsuka.DOI: 10.3390/cells8070761 発表論文はこちらからご確認できます。
<詳しい研究内容について>
がんを兵糧攻め!口腔がんの血管に発現する新たな標的物質を発見
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(歯学系)
口腔病理学 助教 河合穂高
(電話番号) 086-235-6652