◆発表のポイント
- 世界で初めて、金属チタンをベースとした生体軟組織用接着材を開発しました。
- 開発した接着材は、粘着性などは全くありませんが、生体軟組織に対して高い親和性を持っており、軽く押し当てるだけで瞬時に真皮組織や筋膜に強く接着します。
- インプランタブル(人体への埋め込みが可能な)センサや医療用デバイスの体内固定への応用、組織接合や組織変形矯正など簡便な外科処置への応用が期待されます。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(歯)生体材料学分野の松本卓也教授、岡田正弘准教授、昭和大学、大阪大学、柳下技研株式会社の共同研究グループは、医療用金属材料であるチタンを表面処理することで、このチタンが真皮や筋膜などの生体軟組織と瞬時に接着することを見出しました。この研究成果は3月23日、ドイツ科学誌「Advanced Materials Interfaces」のオンライン電子版で公開されました。
インプランタブルセンサや医療用デバイスの生体内への固定、生体組織どうしの接合といった目的のためには、高分子製の縫合糸が一般に使用されています。一方で、医療現場においてはこれら用途に簡便かつ迅速に使用できる生体組織用接着材の開発が強く望まれています。
本チタン材料は一般的なチタン薄膜を一定温度下で酸処理しただけのものです。簡単な処理にも関わらず、このチタン薄膜は生体軟組織、特に真皮組織や筋膜組織に高い接着力を示すことが見出されました。この酸処理によりチタン表面は疎水化するとともに著しい結合水量の減少が生じます。この状態が生体軟組織との疎水性相互作用を増強し接着力が生じるものと考えられます。
本研究成果は、簡便かつ迅速に強い接着力を示す生体親和性に優れた新しい接着材として、インプランタブルセンサや医療用デバイスの体内固定への応用、組織接合や組織変形矯正など簡便な外科処置への応用が期待されます。
◆研究者からのひとこと
接着材というと糊やボンドを思い浮かべると思いますが、これらは化学反応の結果、液状のものが固化することで接着性を示します。今回の接着材はこのようなものとは全く別のものです。本材料は見た目はただの金属の薄膜です。にも関わらず、体の軟らかい組織(特に、真皮、筋膜)にそっとおいて、トントンと圧接するだけで、すぐに接着します。表皮とはくっつかないので、手にはくっつきません。世の中の既存の概念にはないものなので、想像しにくいかと思いますが、なかなか面白いモノです。 | 松本教授 |
■論文情報論 文 名:Titanium as an instant adhesive for biological soft tissue
邦題名「チタンでできた生体軟組織用の瞬間接着材」
掲載紙:Advanced Materials Interfaces著 者:Masahiro Okada, Emilio Satoshi Hara, Atsushi Yabe, Kei Okada, Yo Shibata, Yasuhiro Torii, Takayoshi Nakano, Takuya MatsumotoD O I:10.1002/admi.201902089U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/admi.201902089
<詳しい研究内容について>
チタンがそのままで接着材に!全く新しい生体軟組織用接着材を開発
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(歯)
教授 松本 卓也
(電話番号)086-235-6667 (FAX番号)086-235-6669