◆発表のポイント
- がん予防のため、発がん物質をできるだけ明らかにすることは重要です。現状、変異原性化学物質の発がんリスクを評価する方法は確立しているものの、非変異原性の化学物質については評価する方法が十分ではありませんでした。
- マウスのiPS 細胞からがん幹細胞へ変化させる方法を利用し、非変異原性の化学物質の発がん性を、動物細胞を用いて短期間で評価できる方法を世界で初めて確立しました。
- 正常細胞ががん幹細胞へ変化する分子メカニズムの研究に大きく貢献することが期待されます。
岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治教授、杜娟博士(研究当時:大学院自然科学研究科博士後期課程)の研究グループは、iPS細胞を利用して、がん幹細胞の自然発生を観察する形で化学物質の危険性を評価するという、世界初の試みに成功しました。炎症に関連する物質を複数分泌しているがん細胞株の培養上清に着目し、これががんの微小環境を再現していると考え、その存在下に種々の化学物質を添加してマウスのiPS細胞を培養し、iPS細胞ががん幹細胞へ誘導される時間を調べました。化学物質を添加しない条件では通常2週間から4週間でがん幹細胞へ変化しますが、約100種類の化学物質を調べたところ、1週間でがん幹細胞へ変化させるものを3種類見つけることができました。本研究成果は6月22日英国時間午前10時(日本時間午後6時)、国際科学雑誌「Scientific Reports」6月22日号に公開掲載されました。
今回の研究成果は、がん幹細胞の発生を促す化学物質を1週間で見出すことを可能にしたことです。この方法で陽性を示す物質はさらに詳細な評価が必要ですが、1次評価としてできるだけ多くの化学物質を短時間で評価するという点で優れた評価方法と言えます。がんは私たちの生命を脅かす存在です。私たちの環境を取り巻く化学物質の安全性評価はこれからも重要な意味を持つでしょう。本方法の今後の応用が期待されます。
◆研究者からのひとこと
私たちのがん幹細胞研究は、逆転の発想から生まれた、世界でも非常にユニークな研究です。今までにない新しい研究成果を継続してあげるための共同研究を歓迎します! | 妹尾教授(左)、杜博士 |
■論文情報論 文 名:Signaling Inhibitors Accelerate the Conversion of mouse iPS Cells into Cancer Stem Cells in Tumor Microenvironment掲 載 紙:Scientific Reports著 者:Du J, Xu Y, Sasada S, Oo AKK, Hassan G, Mahmud H, Khayrani AC, Md Jahangir A, Afify SM, Kumon K, Mansour HM, Nair N, Uesaki R, Zahra M, Seno A, Okada N, Chen L, Yan T, Seno M.D O I:10.1038/s41598-020-66471-2U R L:https://www.nature.com/srep/
<詳しい研究内容について>
iPS細胞を用いた化学物質の発がん性判定方法を開発
~がん幹細胞への誘導の様子を観察する、世界で初めての手法~
<お問い合わせ>
岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科
教授 妹尾昌治
(電話番号/FAX)086-251-8216