東京理科大学
岡山大学
◆研究の要旨とポイント
- これまで、ナトリウムイオン電池の炭素負極材料の容量は300-350mAh/gがほとんどで、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池よりも低エネルギー密度だと認識されてきました。
- 本研究では478mAh/gと、これまでのナトリウムイオン電池の研究開発の常識では考えられないほどの高容量(世界最高値)を示す負極材料を合成しました。
- 本研究で開発した高容量の負極材料を用いることで、高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現が期待されます。
- 今後、ナトリウムイオン電池の正極や電解質の開発が進めば、リチウムイオン電池の性能を凌駕する可能性があります。
東京理科大学理学部第一部応用化学科の駒場慎一教授(責任著者)、理学研究科化学専攻の神山梓氏(修士卒、筆頭著者)、研究推進機構総合研究院の久保田圭嘱託准教授、物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点の館山佳尚グループリーダー、Youn Yong NIMSポスドク研究員、岡山大学大学院自然科学研究科の後藤和馬准教授らの研究グループは、これまでのナトリウムイオン電池の負極材料よりもはるかに高い容量を示すハードカーボン(難黒鉛化性炭素)の合成に成功しました。本材料を負極に用いた高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現が期待されます。
ハードカーボンは可逆容量(使用可能な容量)、作用電位、サイクル寿命、資源の豊富さのバランスが良いことから、ナトリウムイオン蓄電池の最も有望な負極材料です。
研究グループは、グルコン酸マグネシウム(Mg(C6H11O7)2)とグルコースの混合物を加熱して酸化マグネシウム(MgO)粒子を形成し、それを鋳型とする合成方法により、これまでの炭素負極材料よりも極めて高い容量を示すハードカーボンを合成することに成功しました。ハードカーボンの可逆容量を最大限に引き出すために、ハードカーボンの合成条件と電気化学特性についての体系的な研究を行いました。
その結果、600°Cで混合物を前処理加熱することで、生成される炭素マトリックスの中にナノサイズのMgO粒子が形成され、その後の塩酸による洗浄と1500°Cでの高熱処理を通して、ナノサイズの空孔を多く持つハードカーボンが合成されました。この材料を負極としたナトリウム電池は478mAh/gという非常に大きな可逆容量を実現し、初回充放電におけるクーロン効率(充放電効率を示す指標の一つ。充電に要した電気に対する有効に取り出せた放電電気量の比)も88%と高い値を示しました。リチウムイオン電池の負極材料である黒鉛の理論容量(372mAh/g)と比較しても、開発したMgO鋳型ハードカーボンは非常に高容量で、同じ容量と電位を示す正極を仮定した場合、黒鉛を用いたリチウムイオン電池に比べ、エネルギー密度比で19%も向上します。
資源量が豊富なナトリウムを利用したナトリウムイオン電池は、希少元素や毒性元素が不要なため、電力貯蔵用の大型蓄電池として応用が期待されています。リチウムイオン電池と比べて材料資源に優位性はありましたが、エネルギー密度に課題がありました。本研究で合成した高容量かつ高エネルギー密度を示すハードカーボンを負極に用いることで、高エネルギー密度なナトリウムイオン電池の実現が期待されます。
■論文情報論 文 名:MgO-Template Synthesis of Extremely High Capacity Hard Carbon for Na-Ion Battery掲 載 紙:Angewandte Chemie International Edition 2020年12月9日 オンライン掲載著 者:Azusa Kamiyama, Kei Kubota, Daisuke Igarashi, Yong Youn, Yoshitaka Tateyama, Hideka Ando, Kazuma Gotoh, and Shinichi KomabaD O I:10.1002/anie.202013951
<詳しい研究内容について>
超高容量を示すナトリウムイオン電池用炭素負極材料の開発に成功~リチウムイオンを超える高エネルギーなナトリウムイオン電池の実現へ~
<お問い合わせ>
岡山大学大学院 自然科学研究科 准教授
後藤 和馬(ごとう かずま)