国立大学法人 岡山大学

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金属錯体上で有機物の4電子酸化を容易に実現

2013年09月05日

 岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻錯体化学分野の三橋了爾大学院生、鈴木孝義准教授らの研究グループは、ルテニウムイオンに結合したある種の有機物が、塩基の添加により温和な条件下で4電子酸化されることを明らかにしました。
 本研究成果は、2013年8月22日、アメリカ化学会発行の科学雑誌『Inorganic Chemistry』電子版に掲載されました。
 通常は高い反応温度や強い酸化剤を必要とする多段階酸化反応を、金属イオンへの配位結合と塩基による水素イオンの脱離を組み合わせることにより低エネルギーで実現したこの反応は、人工光合成の鍵反応である水の酸化にも応用できると期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科の三橋了爾大学院生(博士後期課程機能分子化学専攻、日本学術振興会特別研究員)と鈴木孝義准教授(地球生命物質科学専攻錯体化学分野)、自然生命科学研究支援センターの砂月幸成助教(分析計測分野)の研究グループは、ルテニウムイオンに配位結合したテトラヒドロピリミジル基の酸化還元挙動と酸塩基反応性を調査した結果、塩基の添加により温和な条件下で4電子酸化され、ピリミジル基に変換されることを明らかにしました。
 金属イオンに配位結合したある種の化合物を、水素イオン(H+:プロトン)の脱離と電子(e)移動を共役させて酸化する方法は、プロトン共役電子移動(Proton-Coupled Electron Transfer: PCET)といわれ、生体内での多くの触媒的な化学反応に関与していると考えられています。この原理を応用し、多くの有機物や水を低エネルギーで酸化する反応の開拓が試みられています。
 本研究で用いたテトラヒドロピリミジル基のピリミジル基への酸化には、4電子と4プロトンの移動が伴い、一般に強い酸化剤と高い反応温度が必要です。このテトラヒドロピリミジル基を含む有機物がルテニウム(Ru)イオンに結合した金属錯体では、金属イオンの酸化数が+2(RuII)の場合には解離が非常に難しかったN–H基が、ルテニウムを(RuIIIに)酸化すると容易にプロトンを脱離するようになりました。この時、同時に有機物からの電子の放出とプロトンの脱離が連続的に起こり、テトラヒドロピリミジル基はピリミジル基に変換しました。つまり、ルテニウムイオンを一旦酸化し、塩基を加えることにより、プロトンと電子の放出が容易になり、温和な条件下でも有機物を4電子酸化することが判明しました(図1)。
 また、最初の過程であるルテニウムイオンの酸化は電気化学的にも実現することができ、比較的低電位の電圧印加でこの酸化を実現できることもわかりました。

図1 ルテニウムイオンの酸化と塩基の添加によるテトラヒドロピリミジル基の4電子酸化反応

<見込まれる成果>
 本研究では、一般的な方法では困難である化合物の多段階酸化反応が、金属イオンへの配位結合と酸塩基反応を組み合わせたPCETにより、温和な条件で実現できることを示しました。反応の触媒として働いたルテニウム錯体には、酸化反応に直接関与しない有機物も結合していますが、この有機物はルテニウムイオンの反応性を制御する重要な役割を果たしています。この有機分子を代替したり、別種の金属イオンを用いることで、より効率が良く応用範囲の広い触媒を開拓することも可能であると考えられます。さらに、このPCET反応を人工光合成の鍵反応である水の酸化(水からの電子とプロトンの取り出し)に応用することが期待されています。

<補 足>
 ルテニウムは酸化還元活性に富んだ金属であり、PCETをはじめとする多くの触媒反応の研究に用いられています。しかし、希少であり高価であるため、他の金属で代替することも求められています。光合成の活性中心では、マンガンがこの働きを担っています。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究C(課題番号25410670)および特別研究員奨励費(課題番号258041)の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Ryoji Mitsuhashi, Takayoshi Suzuki, and Yukinari Sunatsuki. Four-Electron Oxidative Dehydrogenation Induced by Proton-Coupled Electron Transfer in Ruthenium(III) Complex with 2-(1,4,5,6-Tetrahydropyrimidin-2-yl)phenolate. Inorganic Chemistry, 2013, 52, in press; (doi: 10.1021/ic401667v)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院自然科学研究科
    錯体化学分野 准教授
(氏名)鈴木 孝義
(電話番号)086-251-7900
(FAX番号)086-251-7900
(URL)http://chem.okayama-u.ac.jp/~complex/Coord.Chem/Home.html

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