乾燥を司る植物ホルモンが気孔の開け閉めを別々に制御
2013年09月12日
岡山大学資源植物科学研究所環境応答機構研究グループの森泉助教と同大大学院環境生命科学研究科生物情報化学研究室の村田芳行教授の研究グループは、乾燥を司る植物ホルモン「アブシシン酸」が気孔の開口運動の抑制と閉口運動の促進を異なる分子機構によって制御していることを解明しました。
本研究成果は2013年8月14日、米国の植物科学雑誌『Plant Physiology』に掲載されました。
気孔は植物体からの水損失のほとんどを司っていると同時に、光合成へのCO2供給に重要な役割を果たしています。早朝の気孔開口と水分不足時の気孔閉口を別々に制御することにより、作物の生産性を促進することができると期待されます。
<業 績> 本研究成果は2013年8月14日、米国の植物科学雑誌『Plant Physiology』に掲載されました。
気孔は植物体からの水損失のほとんどを司っていると同時に、光合成へのCO2供給に重要な役割を果たしています。早朝の気孔開口と水分不足時の気孔閉口を別々に制御することにより、作物の生産性を促進することができると期待されます。
気孔は、光合成のためにCO2を取り込む植物の重要な器官です。それと同時に、植物の水損失のほとんどは気孔からの蒸散です。植物は乾燥を感知するとアブシシン酸を合成し、アブシシン酸は組織を広がって分配され、到達した先の組織で乾燥に耐える応答を引き起こします。これらの応答のうち、気孔閉口の誘導は有名な応答のひとつです。また、気孔開口の抑制も重要なアブシシン酸応答のひとつです。一見似ているように思える、アブシシン酸による開口阻害と閉口誘導ですが、早朝の日の出から気孔が開いてくる際にこれを抑制する場合と、日中に水分が足りなくなった場合に水損失を押さえるために閉口する場合とで生理的な条件は異なります。それぞれの気孔運動を制御するアブシシン酸認識機構も異なるという説が20年ほど前に提唱されましたが、この違いを生み出す遺伝子については分かっていませんでした。
図:気孔開口に必須なH+-ATPaseと呼ばれる酵素の活性化状態を蛍光抗体法で可視化し、蛍光顕微鏡で撮影したもの。蛍光強度から気孔開口シグナル活性化の様子を探ることができる。
今回、岡山大学資源植物科学研究所環境応答機構研究グループの森泉助教と共同研究者らのグループは、シロイヌナズナという植物の突然変異体を用いて、アブシシン酸を認識する既知の受容体(PYR1PYL1PYL2PYL4と名付けられた4つの遺伝子)は、アブシシン酸で誘導される気孔閉口に関与する一方、早朝の気孔開口の抑制には関与していないことを明らかにしました。このことは、同じアブシシン酸応答であっても、遺伝的に開口の制御と閉口の制御を分離することができることを意味しています。
<見込まれる成果>
気孔がより大きく開けば光合成効率が上昇する一方、植物が乾燥ストレスに弱くなります。朝の開口と昼/夕方の水不足による閉口に関わる遺伝子が異なることが明らかになりましたので、蔬菜の生産量や瑞々しさの最適化をねらった、気孔のアブシシン酸受容体を標的とする作物の品種の作出が可能になるでしょう。また、アブシシン酸受容体を標的として気孔開口と閉口を別々に制御する薬剤(プラントアクチベーター)の開発が期待されます。早朝の気孔開度を大きくすることで光合成速度が促進されますし、反対に午前中の気孔開口を抑制することでみずみずしい蔬菜の収穫を省労力で行うことができると期待されます。もちろん、生産性と水消費を最適化した節水農業にも貢献することが予想されます。
<補 足>
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費・新学術領域研究「陸上植物の高CO2応答の包括的解明」の助成を受け実施しました。
発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Yin Y, Adachi Y, Ye W, Hayashi M, Nakamura Y, Kinoshita T, Mori IC, Murata Y. Difference in abscisic acid perception mechanisms between closure induction and opening inhibition of stomata. Plant Physiology, 2013, (doi: 10.1104/ pp.113.223826)
報道発表資料はこちらをご覧ください
<お問い合わせ>
(所属)岡山大学資源植物科学研究所 助教
(氏名)森 泉
(電話番号)086-434-1215
(FAX番号)086-434-1249
(URL)http://www.rib.okayama-u.ac.jp/ers/research.html