◆発表のポイント
- 研究グループ独自のユニークな手法により、半導体の材料となる遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)の大面積・高品質合成に成功しました。
- マイクロリアクタと呼ばれる閉じ込め空間を利用してTMDCの成長を制御し、成長機構を明らかにしました。
- この手法の開発により、将来的なウェアラブルデバイスやIoE(Internet of Everything)の発展に大きく寄与します。
岡山大学大学院自然科学研究科博士前期課程2年の橋本龍季大学院生と学術研究院自然科学学域の鈴木弘朗助教、三澤賢明助教、鶴田健二教授、林靖彦教授らの研究グループは東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の宮田耕充准教授らと共同で、閉じ込め空間を用いた新しい化学気相成長法により、原子レベルに薄い半導体材料(遷移金属ダイカルコゲナイド、TMDC:Transition Metal Dichalcogenide)の大面積・高品質合成に成功しました。
今回の研究成果は、2022年7月6日に米国化学会(American Chemical Society)発行の学術雑誌「ACS Nano」に掲載されました。
TMDCは原子3つ分の厚みの半導体材料で、機械的柔軟性に加え、優れた電気・光特性を持つことから、次世代のフレキシブル光電子デバイスへの応用が期待されています。この応用を実現するためには、高品質なTMDCを大面積で合成するための手法が必要不可欠です。今回の研究では大面積・高品質なTMDCを合成するユニークな手法を提案し、TMDCの成長機構の詳細を明らかにしました。また、合成したTMDCを使用した光電子デバイスを作製し、優れた電子デバイス特性を示すことを明らかにしました。TMDCのフレキシブルな光電子デバイスは、今後ウェアラブルデバイスやIoE(Internet of Everything)の発展に大きく寄与します。
◆研究者からひとこと
研究開始当初はTMDCが新規材料である上に、研究室でも前例のないテーマで大変苦労しましたが、柔軟な姿勢で粘り強く実験に取り組むことで、本成果に繋がりました。(橋本) 岡山大学に着任し、新たに取り組んだ研究がようやく形になり、とても嬉しいです。ちょっとした工夫から新しい発見があるのは、この研究分野の醍醐味だと改めて感じました。(鈴木) | 橋本大学院生(M2) | 鈴木助教 |
■論文情報
論 文 名:Surface Diffusion-Limited Growth of Large and High-Quality Monolayer Transition Metal Dichalcogenides in Confined Space of Microreactor
掲 載 紙:ACS Nano
著 者:Hiroo Suzuki, Ryoki Hashimoto, Masaaki Misawa, Yijun Liu, Misaki Kishibuchi, Kentaro Ishimura, Kenji Tsuruta, Yasumitsu Miyata, and Yasuhiko Hayashi
D O I:10.1021/acsnano.2c05076
U R L:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.2c05076
■研究資金
本研究は、若手研究(21K14497、20K14378)、学術変革領域研究(21H05232、21H05234)、2020年度住友基礎科学研究助成、2021年度笹川科学研究助成、2020年度矢崎科学技術振興記念財団の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
閉じ込め空間を利用した原子レベルに薄い半導体の大面積・高品質合成に成功~次世代フレキシブル光電子デバイスの実現に期待~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院 自然科学学域
助教 鈴木 弘朗
(電話番号)086-251-8133
(FAX)086-251-8133