研究成果の概要
日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の探査対象であった小惑星リュウグウから回収された 16 粒子を用いて、詳細な地球化学総合解析を行いました。その結果、小惑星物質試料が太陽系形成前から現在に至る複雑な物理化学過程の証拠を保持していることがわかり、生命の起源を含む太陽系物質進化の新しい描像を導くに至りました。
研究資金
本研究は、文部科学省「共同利用・共同研究拠点経費」、内閣府「国立大学イノベーション創出環境強化事業」の支援を受け実施しました。
また、平成28年10月21日に発生した鳥取中部地震により先端設備が甚大な被害を受けましたが、文部科学省(施設整備費補助金)による整備支援いただいたことにより、今回の成果に大きく繋がりました。
研究のポイント
- 有機物を多く含むと考えられていたC型小惑星リュウグウのサンプルリターンを実施し、回収された試料の地球化学総合解析を、世界に先駆けて実施した。
- 試料は地球上の汚染を最も受けていない小惑星物質である。小惑星リュウグウの二地点から回収されたこれらの試料に対して、地質学的観点を踏まえた分析をおこなった。
- 試料は主に含水層状ケイ酸塩鉱物から構成され、空隙率は約50%である。
- 小惑星リュウグウの化学組成はCIコンドライトと類似している。またリュウグウ最表面からだけでなく、人工クレーター形成に伴って噴出した内部物質を採取出来ていたことが確認された。
- 採取に用いたタンタル製弾丸による汚染が一部試料において確認されたが、人工クレーターを作成するために用いた銅製衝突体(SCI:搭載型小型衝突装置)に起因する汚染は認められなかった。
- 水素、炭素および窒素同位体異常を示す星間雲を起源とするミクロンサイズの有機物質が検出された。
- 生命の起源に結びつくアミノ酸やその他の有機物が検出された。
- 原始太陽系を構成した星間物質や太陽系前駆物質を含む始原的な特徴が保持されていた。
- 小惑星リュウグウの前駆天体は、太陽系外縁部において有機物およびケイ酸塩を含む氷に富むダストが集積した氷天体である(氷前駆天体)。
- 氷前駆天体の大きさは数十キロメートルであり、太陽系形成後約260万年までの期間に水質変質を被った。
- 氷前駆天体は破砕され、大きさ数キロメートル程度の彗星核が形成された。その後これは地球近傍軌道に移動した。彗星核から氷が昇華し、天体サイズの縮小および固体―ガスジェットに伴う物質の再堆積によって、空隙の多い低密度物質が形成された。
- 有機物は試料に普遍的に存在し、これらは宇宙線および太陽風の照射による宇宙風化を被り、小惑星表面のアルベド特性を決定している。
<詳しい研究内容について>
小惑星リュウグウの起源と進化- 地球化学総合解析による太陽系物質進化の描像
<お問い合わせ>
岡山大学自然生命科学研究支援センター
特任教授 中村 栄三
Pheasant Memorial Laboratory