2008年ジュニアロースクール報告
2008年ジュニアロースクール報告
2008年8月7日、岡山弁護士会・岡山大学法学部共催で、中学生・高校生向け「夏季ジュニアロースクール」を実施、岡山県内の中学生、高校生等21名が参加してくれました。
夏季ジュニアロースクールは、法律専門家ではない一般の人々が法や司法制度、これらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身につけるための法教育実践の一環として、毎年行われています。
今年は、2部構成で、午前中に行われた第1部では、刑事模擬裁判「岡山市ゲームソフト窃盗事件」で裁判を疑似体験、午後からの第2部では、「インターネット・携帯電話へのフィルタリングと表現の自由について考えてみよう」をテーマに、憲法上の問題点と仮想の民事裁判での主張についてグループ形式で討議しました。グループ討議には、中高生の討議の手助けをしながら自らも学ぶため、岡山大学法学部と教育学部の学部生と大学院生も参加しました。
第1部 刑事模擬裁判「岡山市ゲームソフト窃盗事件」
午前10時、岡山地方裁判所の法廷を見学した後、中高生たちに配布されたのは、「あなたは、今回の事件を担当する裁判官です。これから、被告人がゲームソフトを盗んだかどうかについて、判決をしなければなりません。」と書かれたワークシート。目の前には、若手弁護士が扮する検察官、弁護士、そして、どう見ても怪しげ、ふてぶてしい様子の被告人の姿が・・・。
事件のあらましは次のとおり。ゲームソフトが盗まれる事件が発生し、被疑者が逮捕されました。この男、2年前にも窃盗罪の前科があり、目撃者も「似ている」と警察に話しました。しかし、男は、「その時間は友達とフィギュアスケートの試合をテレビで見ていた。アリバイがある。」と主張するのです。
証人として出廷した電器屋の店員や被告人の証言、被告人本人の言うことを聞いて、中高生たちはどう判決を下していくのでしょうか。岡山大学の学生たちが討議の進行役になって進めた班ごとの話し合いでは、「目撃者は10m以上離れた所から目撃しているし、帽子にサングラス姿なのに、なんでこの人だと言い切れるの?」、「でも、テレビの放送日を勘違いしていた被告人の大親友も怪しい」、「前科があるし値段も覚えていない被告人の態度が・・・」など、いろいろな意見が出てきました。班ごとの発表では、罪を犯したとも犯していないとも言い切れないので、「推定無罪の原則」により無罪とする判決が多数になりました。「推定無罪の原則」とは、ひとことで言えば、「疑わしきは罰せず」、検察官が被告人の犯罪事実を立証できなければ、被告人は無罪になるという原則です。
第2部 インターネット・携帯電話へのフィルタリングと表現の自由について考えてみよう
「出会い系サイト」や「学校裏サイト」など有害サイトがいじめや犯罪の温床になっているということが問題となっています。広島市では、2008年3月に、青少年がアクセスできないように携帯電話などに有害情報の閲覧を制限する「フィルタリング機能」をつけるよう販売店などに義務付ける条例を制定し、2008年7月1日から「フィルタリングソフト機能」を備えたパソコンや携帯電話を販売しなければならなくなりました。
さて、「もしもこんな事件が起こったら?」ということで紹介された事案は次のとおり。プロバイダ事業者のXさんは、「平和について真実を知った上で考えてほしい」という信念から、平和問題に関する情報を無料配信していました。しかし、戦場における死傷者の無残な画像などが掲載されているため、フィルタリングソフト機能に引っかかり、Y県内ではXさんのサイトが閲覧しにくくなりました。そこでXさんは閲覧できるようにするプログラムを開発して自分のサイトにアップロードしました。このため、XさんはY県のきまりに基づいて、立ち入り調査を受け指導されましたが、それでも言うことを聞かなかったので、有害サイトを開設している業者として氏名と住所が公表されてしまいました。 有害サイトを開設しているとして氏名・住所が公表されたことで、「名誉がとても損なわれた。このような条例、制裁のやり方は憲法違反だ」と主張するXさんとY県、どちらが正しいのでしょうか。
Xさんには「表現の自由」が、Y県には「公共の福祉」を守る責任があり、Xさん側、Y県側に分かれて活発なディベートが行われました。
2008年ジュニアロースクールに参加したある女子高生は、「いろんな目線で、裁判や条例のことを一緒に考えられて面白かったです。」と感想を聞かせてくれました。
ルールの必要性や裁判の仕組み、法的なものの考え方について興味をもち、これから社会の諸問題を適切に解決できる市民となっていただくことを願っております。