本学は7月15日、岡山大学の強みのひとつである医療系分野の研究開発の成果について、革新的な技術に橋渡すことのできる基礎研究や臨床現場、医療イノベーションなどに結びつく成果などを英語で世界に情報発信するWebレター「Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)」のVol.92を発行しました。
本号では、学術研究院自然科学学域(工)高分子材料学研究室の内田哲也准教授と同大学院自然科学研究科博士後期課程の山下功一郎大学院生(当時)、学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(岡山大学病院眼科)の松尾俊彦教授の医工連携研究として、カナダ、トロント大学(University of Toronto)工学部(Faculty of Applied Science & Engineering)のWilly Wong教授との国際共同研究を行い、光電変換色素薄膜型人工網膜(OUReP™)が出力する電位に関してシミュレーション研究の成果について紹介しています。
アメリカの従来型の人工網膜は電極から伝導電流を出力して網膜神経組織を刺激します。伝導電流の場合には電流は拡散するので狭い範囲に限局して刺激することが難しいのです。人工網膜OUReP™は電位差(変位電流)を出力しますが、どの程度の範囲の網膜神経組織を刺激するのかは先行研究がないため不明でした。ケルビン・プローブで実際に測定した人工網膜OUReP™表面で発生する電位の数値をもとにして、隣接する網膜神経組織にどのように電位が伝わるかを計算しました。その結果、視細胞がなくなった網膜神経組織で双極細胞が人工網膜OUReP™に接している場合、人工網膜表面の電位変化によって双極細胞は刺激されることが明らかになりました。
この研究成果によって、前例のない世界初の新方式の人工網膜の作用機序が示され、医師主導治験の実施に向けた理解が進むものと考えます。
岡山大学方式の人工網膜OUReP™は、色素結合薄膜型の人工網膜であり、2013年に米国で販売開始されたカメラ撮像・電極アレイ方式とはまったく異なる技術の“世界初の新方式”の人工網膜です。現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と戦略相談を積み重ね、「医薬品医療機器法(旧薬事法)」に基づく医師主導治験を岡山大学病院で実施する準備を進めています。
岡山大学は、2013年8月に文部科学省がわが国のさらなる大学研究力向上や国際的な研究競争力強化等のために全国の大学・研究機関から選定した、「研究大学強化促進事業」の選定大学(国内19大学)です。世界で研究の量、質ともに存在感を示すリサーチ・ユニバーシティ(研究大学):岡山大学を構築し、「岡山から世界に新たな価値を創造し続けるSDGs推進研究大学」となるため、強みある医療系分野などの国際的な情報発信を力強く推進しています。今後も本学から生み出される成果を産学官民共創のオープンイノベーションの加速や社会、医療現場が求める革新的技術、健康維持増進により早く届けられるように研究開発を推進していきます。
なおOU-MRUは、文部科学省「研究大学強化促進事業」の一環として実施されています。
Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU) Vol.92:Numerical modelling to assist the development of a retinal prosthesis
○Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)
2012年より岡山大学では、研究成果や知的財産、技術移転活動などを英語で情報発信するWebマガジン「Okayama University e-Bulletin」を年3~4回発行して来ました。またAAAS(American Association for the Advancement of Science)が提供する、世界最大規模のオンラインニュースサービス「EurekAlert!」を利用し、世界の大学・研究機関の研究者やマスコミ関係者などにニュースやトピックスを交えて配信し、岡山大学の海外への情報発信の強化と国際的知名度の向上などを推進しています。
OU-MRUは、e-Bulletinの姉妹誌として、岡山大学の強みある医療系分野とその融合分野などの更なる増強と本学研究者が同分野で発表したイノベーティブな研究成果を世界にタイムリーに発信するために発行しています。
<OU-MRU Back Issues:Vol.84~Vol.91>
Vol.84:Friend to Foe — When Harmless Bacteria Turn Toxic (大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)垣内力教授)
Vol.85:Promising imaging method for the early detection of dental caries (大学院医歯薬学総合研究科(歯学系)島田康史准教授)
Vol.86:Plates and belts — a toolkit to prevent accidental falls during invasive vascular procedures (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)大原利章助教)
Vol.87:Therapeutic potential of stem cells for treating neurodegenerative disease (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)阿部康二教授&山下徹准教授)
Vol.88:Nanotechnology for making cancer drugs more accessible to the brain (岡山大学中性子医療研究センター 道上宏之准教授)
Vol.89:Studying Parkinson’s disease with face-recognition software (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)阿部康二教授&山下徹准教授、岡山大学病院 森原隆太助教&田所功医員)
Vol.90:High levels of television exposure affect visual acuity in children (学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医) 松尾俊彦教授&学術研究院医歯薬学域(医) 頼藤貴志教授)
Vol.91:Meeting high demand: Increasing the efficiency of antiviral drug production in bacteria (学術研究院環境生命科学学域(農) 田村隆教授)
※Vol.90(2021年度発行)より教員(研究所・附属病院等を除く)は「学術研究院」の下、各学域に所属することになったため、2021年度以前の大学院研究科表記から学術研究院学域表記に変更しています。
学術研究院の設置について:新着ニュース
<参考>
・「Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)」バックナンバー
・岡山大学国際Webマガジン「Okayama University e-Bulletin」
【本件問い合わせ先】
総務部 広報課
TEL:086-251-7293
E-mail:www-adm◎adm.okayama-u.ac.jp
※@を◎に置き換えています。
Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU) Vol.92 発行
2021年07月15日