わが国における国立大学法人が置かれている環境は日々劇的に変化しており、従来(法人化前)と比べて業務が複雑化し、迅速性が求められ、そして高等教育機関である大学における教育研究活動の枠を超えた経験のない新たな業務等が増加しています。さらに現在、教員が担っている業務の一部が、教育研究時間の圧迫などにもなっており、またそれらは「教員」ではなく「高度専門人材」などが担うべき点も多くなってきています。これらの状況下において、大学職員の「高度化」を進め、知識から新しい価値を生み出すことのできるナレッジワーカーなどとしてのさらなる活躍が重要な点となっています。今回、この大学職員の高度化を成すためのひとつの手段として、ナレッジワーカーとしての博士人材の育成・活用を行い、その仕組みとして大学院修学支援制度を本年度秋学期から開始します。
本制度の対象者は、本学の大学職員(事務職員、技術職員、図書職員など)であり、本学大学院を対象に修士と博士の学位取得を支援します。
本年度は、まず技術職員の博士の学位取得として開始し、制度運用の微調整等を行います。来年度からは対象者を全大学職員に拡大し、修士の学位取得も開始します。
主な運用点については、
①大学院修学に係る経費(入学料、標準修学年限に係る授業料その他入学及び履修に必要な納入金)は、大学法人が全額負担する。
②授業科目の履修のため勤務時間を割くときは、当該時間について職務専念義務を免除する。
③制度適用職員の健康及び福祉を確保するため、適正な就業体制を設定する。
④制度に手を挙げる際に上司の許可等は不要。また、修学支援期間中は人事異動の対象としない。
⑤出願(研究室選定)や研究計画等の準備において、URAの相談サポートを得ることができる。
⑥博士人材としての職員のキャリアパスを再構築するため、大学法人組織改革を柔軟に行う。
などが挙げられます。
本学では、ナレッジワーカーとしての博士人材の育成として、学生を対象に、文部科学省「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」やJST「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」、「次世代AI人材育成プログラム(博士後期課程学生支援)(BOOST)」、そして本学独自の奨学金支援制度など、多種多様な支援制度を運用しています。また本年度から「国立大学法人岡山大学職員就業規則」を改正し、「高度専門人材」の区分を新設。博士人材運用等を含めた制度改革を既に実施しています。
本制度の運用について、担当の佐藤法仁副理事(研究・産学共創総括担当)・副学長(学事担当)・上級URAは、「本制度を組成する際、教育研究系技術職員らに対して意見を求め、制度ができた際には使用したいニーズが認められました。また本制度を実施する中で、大学職員の高度化という範囲に留まらず、知識から新しい価値を生み出すことのできるナレッジワーカーを育成する場としての大学院の在り方も問われていると考えています。旧態依然とした研究者や大学教員を育てる場としての大学院の枠に捉われず、ナレッジワーカーを育て、実践できる人材などを輩出するなどの形に変えていく必要性があるとも思います。つまり、本制度を運用することで大学職員の高度化のみならず、博士人材としての職員のキャリアパスの再構築が生まれ、大学法人の組織に新たな変化をもたらすこと、さらに大学院の『新(真)』改革の必要性が生まれ、この改革を具現化することで本学のみならず、わが国の大学・研究機関における大学院改革の意識と行動の変化を促すことができる可能性があると考えます。本制度を単なる人材育成の取り組みに留まらず、大学法人という組織と教職員(人)に対して『変化』を促し、体感させる『源』でもあるものとしていきたい」と、今後の制度運用とその波及効果も含めてコメントしました。
本学は、岡山大学長期ビジョン2050「地域と地球の未来を共創し、世界の革新に寄与する研究大学」の実現に向け、さまざまな取り組みを戦略的に、スピード感を持って実施しています。また昨年12月22日に文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」(実施主体:日本学術振興会)に採択され、長期ビジョン2050実現を加速化させています。今回の取り組みもJ-PEAKSの取り組みのひとつですが、制度設計自体は数年前から構想していたものです。今後も固定観念を廃し、失敗を恐れず、何度も何度も挑戦を続け、どんどん岡山大学は変わっていきます。その変わる原動力のひとつである大学職員の挑戦「大学院修学支援制度」にどうぞご期待ください。
なお、本件は6月25日に開催された2024年度6月定例記者会見における学長発表において詳細に紹介されました。
〇那須保友学長のコメント
博士人材という点では、文部科学省の「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」が発表され、産学官さまざまなステークホルダーらが新しい動きを見せています。今回の大学院修学支援制度は、この文部科学省プランに呼応したものではなく、文部科学省プラン作成以前から本学で構想を練り、学内構成員らの聞き取り調査などを行って制度化させました。つまり本制度は、岡山大学長期ビション2050の実現のためのひとつの手段です。
本学では教員の役割の見直しや複線化人事制度などさまざまな取り組みに着手しています。この中で大学職員の高度化は必須であり、その担うべき役割もマニュアルワーカーではなく、ナレッジワーカーへと変化しています。今後、本制度を柔軟に運用し、利用者が使いやすいものに変えていきます。さらに従来の大学院での教育研究の在り方も本制度などをもとに変えていくことになると考えています。大学院は研究者や大学教員だけを育成する場ではもはやありません。知識から新しい価値を生み出す人材を生み出す場として、しっかりと体を成すように、今後もさまざまな組織・制度改革などを、戦略的かつスピード感を持って実施します。どうぞ地域中核・特色ある研究大学である岡山大学の挑戦にご期待ください。
<参考>
・岡山大学「大学院修学支援制度」を開始~大学職員の博士人材としての高度化を強化するとともに大学院改革の推進へ~(2024年6月岡山大学定例記者会見)
【本件問い合わせ先】
岡山大学研究力・イノベーション創出強化実現会議
(担当窓口:研究・イノベーション共創管理統括部研究協力課)
TEL:086-251-7115
E-mail:innovation◎adm.okayama-u.ac.jp
※@を◎に置き換えています
岡山大学「大学院修学支援制度」を始動~大学職員の高度化のひとつの手段としてナレッジワーカーとしての博士人材を育成・活用し、かつ大学法人経営や大学院改革の強化へ~
2024年06月27日